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1907–1910

ピカソはなぜ人の顔をバラバラに描いたの?

ピカソはホンマに天才か・・「アビニョンの娘たち」の見方

ピカソの絵を見て、「どうして顔がこんな形なの?」と思ったことはありませんか。目や鼻の位置が不思議だったり、顔がいくつものかけらに分かれているように見えたりします。実はピカソは、若いころから人物を自然な姿で描く力を持っていました。

それなのに、なぜ形を崩したのでしょう。1907年から1910年にかけての三つの絵を手がかりに、その理由をたどってみましょう。

《アヴィニョンの娘たち》の不思議な顔

1907年、パリで活動していたスペイン出身の画家パブロ・ピカソは、大きなキャンバスに五人の女性を描きました。《アヴィニョンの娘たち》です。女性たちはこちらを向いていますが、顔も体も鋭い線で区切られ、細長い三角形や角ばった面を組み合わせたように見えます。

まずはニューヨーク近代美術館の作品ページで全体を見てみてください。画面右側の顔と、中央の女性たちの顔には、どんな違いがあるでしょうか。

特に画面右側の二人の顔は、仮面を思わせる形をしています。ピカソはヨーロッパの絵画だけでなく、アフリカやオセアニアなどの彫刻や仮面にも目を向けていました。そうした品々が当時のフランスに集められた背景には、植民地支配の歴史もあります。ピカソはさまざまな表現を参考にしながら、人物を自然に見せるための従来の描き方を大きく変えようとしていました。(参照:ニューヨーク近代美術館(MoMA)|《アヴィニョンの娘たち》)

顔を「面」に分けると、どうなる?

変化は、その後の肖像画ではもっとはっきりします。1909年の《梨のある女》でピカソが描いたのは、フェルナンド・オリヴィエという実在の女性です。背景の梨には丸みが残っていますが、女性の額や頬、首は角張った面へと分けられ、影も形を組み立てる一部になっています。顔を一つのなめらかな輪郭で囲むかわりに、いくつもの面をつなぎ合わせているのです。(参照:ニューヨーク近代美術館|ピカソ《梨のある女》)

二つの作品を並べて見ると、形の変化がよくわかります。《梨のある女》を見る / 《マンドリンを持つ少女》を見る。

さらに1910年の《マンドリンを持つ少女(ファニー・テリエ)》では、人物の顔や楽器が細かな形に分かれ、灰色や茶色に近い落ち着いた色で描かれています。目を探すと、扇のような形が見つかります。鼻や口の輪郭ははっきりせず、それでも画面には人がいて、楽器を抱えていることが少しずつ伝わってきます。ピカソは物を見分けるための手がかりを残しながら、その形を自由に組み直していました。(参照:ニューヨーク近代美術館|ピカソ《マンドリンを持つ少女》)

ピカソは、なぜこんな描き方をしたの?

私たちは人の顔を見るとき、正面だけでなく、横から見たり、近づいたりして、その人の姿を知っていきます。絵画には、一つの場所から見た景色を自然な奥行きで描く方法があります。ピカソが探ったのは、その約束に縛られず、形をいったん分けて、画面の中で新しく組み立てる方法でした。見る角度を変えたり、形の特徴を取り出したりすることで、一枚の絵にそれまでとは違う姿が現れます。

この試みを一緒に進めたのが、フランスの画家ジョルジュ・ブラックです。ブラックも1908年の《レスタック付近の道》で、家や木々を角張った形として描きました。二人が1907年頃から発展させた新しい表現は、やがて「キュビスム」と呼ばれるようになります。

キュビスムとは、人物や物の形をいくつもの面に分け、組み直して描く新しい絵画の方法です。ニューヨーク近代美術館によるキュビスムの解説では、この時代の作品をさらに見ることができます。(参照:ニューヨーク近代美術館|ジョルジュ・ブラック《レスタック付近の道》・メトロポリタン美術館|キュビスム)

まとめ

国立西洋美術館「パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ」
日本では約50年ぶりの大キュビスム展。ポンピドゥーセンターから約140点。パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラック。天才画家が開いた、新たな美の扉。「サロン・キュビスト」たちの作品も多数紹介。

ピカソが人の顔をバラバラに描いたのは、描き方を知らなかったからではありません。目の前にある形を、そのまま写す以外の方法を探していたからです。顔の輪郭を分け、違う向きや形の特徴を一枚の画面に組み合わせることで、絵画に新しい見え方を生み出しました。

ピカソとブラックの試みは、20世紀の絵画を大きく変えていきます。もっと詳しく知りたくなったら、ART LIBRARYの「キュビスムの成立 — ピカソとブラック、空間を組み替える」や「分析的・総合的キュビスム」へ進めます。(参照:ニューヨーク近代美術館|キュビスム)

参考資料・出典