Art Library
Art History

2017–2023

NFT Artとデジタル所有

CryptoPunks、Beeple、ブロックチェーン、市場

2017年、Ethereum上に10,000体の小さなピクセル・キャラクターが公開されました。Larva LabsのCryptoPunksです。当初はウォレットを持つ人が取引手数料を除いて無料で取得できたこの実験は、数年後には一体が数百万ドルで取引され、SNSのプロフィール画像、オンライン・コミュニティ、ブランド、そして美術館コレクションへと姿を変えていきます。同じ2017年にはCryptoKittiesが、デジタル猫を所有し、組み合わせて新しい個体を生成するゲームとして広がりました。

これらの実践を支えたのが、ブロックチェーン上で個別のトークンを識別・移転する仕組みです。2018年にはEthereumのERC-721が標準化され、NFTを複数のウォレットやマーケットプレイスで扱うための共通基盤が整いました。SuperRareのような市場ではデジタル作家が1/1作品を販売し、2019年Autoglyphs、2020年Art Blocksでは、ブロックチェーン上のコードと生成美術が直接結びつきます。

2021年、NFTは暗号資産文化の内部から国際的な美術市場の中心へ突然現れたように見えました。Beeple《EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS》がChristie’sで69,346,250ドル、CryptoPunk #7523がSotheby’sで11,754,000ドルで落札され、大手オークションハウスがNFT専用企画を相次いで開始します。一方で、NFTを「画像そのもの」「著作権」「永久保存」「必ず作家へロイヤリティが入る仕組み」と誤解する説明も大量に流通しました。

本記事ではNFTを価格高騰の歴史としてだけではなく、デジタル作品の所有をどのように記録できるかという技術・制度上の実験として扱います。2017年以前のKevin McCoy《Quantum》とSarah Meyohas《Bitchcoin》から始め、CryptoPunks、CryptoKitties、ERC-721、SuperRare、Art Blocks、Beeple、大手オークション、PFP、ロイヤリティ、環境負荷、市場収縮、2023年Centre Pompidouによる収蔵までを追います。重要なのは、NFTが作品そのものなのか、作品への証明なのか、所有者は何を取得するのか、そしてブロックチェーンが美術の制作・流通・保存を実際にどこまで変えたのかを、一つずつ分けて考えることです。

CONTENTS

  1. NFTとは何か
  2. NFTはデジタル画像そのものではない
  3. トークンと作品を分けて考える
  4. NFT所有と著作権所有は別である
  5. ブロックチェーンは何を記録するのか
  6. コピーできる画像をなぜ所有するのか
  7. 2017年以前の前史
  8. 2014年 Kevin McCoy《Quantum》
  9. 2015年 Sarah Meyohas《Bitchcoin》
  10. 2017年CryptoPunks
  11. 最初は無料で配布された
  12. 生成されたキャラクターとPFP
  13. 希少属性が価格を作る
  14. 2017年CryptoKitties
  15. 所有物が新しい所有物を生成する
  16. 人気がインフラ問題を可視化する
  17. 2018年ERC-721
  18. ERC-721はNFTの「発明日」ではない
  19. ERC-721とメタデータ
  20. オフチェーン保存
  21. オンチェーン作品
  22. 2018年SuperRare
  23. 「1/1」というデジタル一点物
  24. 来歴を公開記録として追う
  25. ウォレットと所有
  26. スマートコントラクト
  27. 二次販売ロイヤリティという期待
  28. 2020年ERC-2981
  29. ロイヤリティをめぐる市場競争
  30. 2019年Autoglyphs
  31. NFT以前から存在した生成美術
  32. 2020年Art Blocks
  33. 購入行為が作品生成の瞬間になる
  34. コードが作品の核になる
  35. 2020年のオンライン化とNFT
  36. 2021年 — NFTが一般美術市場へ入る
  37. Beeple《EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS》
  38. 2021年3月11日 6,934万6,250ドル
  39. 価格と美術史的評価を分ける
  40. 暗号資産と伝統的オークションの接続
  41. 2021年CryptoPunksが大手オークションへ
  42. 2021年Sotheby’s《Natively Digital》
  43. オークションが歴史を作る
  44. World Wide WebのソースコードまでNFTになる
  45. PFPの拡大
  46. 所有がコミュニティ参加証になる
  47. PFPを美術とコレクティブルのどこに置くか
  48. 2022年CryptoPunksの知的財産権がYuga Labsへ
  49. トークン、作品、ブランド、ライセンス
  50. 2021年の市場急拡大
  51. 収集と投機が重なる
  52. floor priceという評価
  53. ウォレットが収集家プロフィールになる
  54. 匿名性と実名性
  55. 取引量をそのまま需要とみなさない
  56. エネルギー消費をめぐる批判
  57. Proof of WorkとNFT
  58. 2022年Ethereum The Merge
  59. The Mergeで環境問題がすべて消えたわけではない
  60. 2022年 — 市場の成長が不安定になる
  61. NFT市場は暗号資産市場から独立していない
  62. 2022–23年 取引所間競争とロイヤリティ
  63. 2023年 — 価格低下と取引の継続
  64. NFT市場とNFT Artを同じにしない
  65. 2023年Centre Pompidouによる収蔵
  66. 市場の流行ではなく選択的に収蔵する
  67. NFTを既存の非物質美術史へ接続する
  68. 証明書としてのNFT
  69. 無断mintという問題
  70. 「永久に残る」という言葉に注意する
  71. 分散型保存も自動的な永久保存ではない
  72. オンチェーン生成美術と保存
  73. 美術館がウォレットを持つ
  74. NFT作品を美術館でどう見せるか
  75. マーケットプレイスが鑑賞空間になる
  76. 価格が作品の横に常に表示される
  77. 投機そのものが作品文脈になる
  78. 作家と収集家の距離
  79. 「仲介者が不要になる」という約束
  80. 新しい開放性と新しい門番
  81. DAOと共同収集
  82. ArtとCollectibleを区別できるか
  83. Conceptual Artとの接続
  84. 非物質化と再物質化
  85. 何でもtokenizeできるという発想
  86. 美術の金融化
  87. それでもNFTを金融商品だけに還元しない
  88. 2023年の美術館収蔵が意味したもの
  89. CryptoPunk #110の収蔵
  90. 美術館は何を収蔵しているのか
  91. 2017–2023年に何が変わったのか
  92. NFTが残したもの
  93. 次の時代へ — パンデミックと美術制度のオンライン化
  94. 参考資料・出典

NFTとは何か

NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)は、ブロックチェーン上で個別に識別・移転できるトークンです。BitcoinやEtherのように同じ単位同士を原則として交換可能な暗号資産とは異なり、NFTはそれぞれ固有のトークンIDなどによって区別されます。

2018年に標準化されたEthereumのERC-721は、NFTを追跡・移転するための共通インターフェースを定義しました。この標準化によって、異なるウォレット、マーケットプレイス、アプリケーションが同じ種類のNFTを扱いやすくなりました。

NFTはデジタル画像そのものではない

NFTを「ブロックチェーン上に保存された画像」と説明すると、多くの作品については不正確です。ERC-721の仕様では、トークンに関連するメタデータの中から、画像などの外部リソースをURIで参照する構造が想定されています。

つまりブロックチェーン上にあるのがトークンとメタデータで、画像ファイル自体はウェブサーバーやIPFSなど別の場所に保存されている場合があります。一方、作品コードやデータの大部分をブロックチェーンへ直接保存する「オンチェーン」のプロジェクトも存在します。

トークンと作品を分けて考える

NFTを購入したとき、何を所有しているのかは作品ごとに異なります。最低限確実なのは、特定のブロックチェーン上で、そのトークンを特定のウォレットが保有しているという記録です。

トークンに関連づけられた画像、映像、音声、物理作品などの扱いは、メタデータ、契約、利用規約によって変わります。「NFTを持っている」ことと、「関連するデジタルファイルそのものを独占的に所有している」ことを自動的に同一視することはできません。

NFTを購入しても、関連作品の著作権が自動的に移転するわけではありません。WIPOも、NFT購入によって作品とそのすべての権利を取得すると考えることは広く見られる誤解だと説明しています。

絵画の現物を購入しても、その絵画の著作権まで自動的に取得するとは限らないのと同様です。NFTとともに複製、商用利用、二次創作などの権利が付与される場合は、別のライセンスや契約条件を確認する必要があります。

ブロックチェーンは何を記録するのか

ブロックチェーンは、複数の参加者によって共有・検証される記録システムです。NFTでは、トークンの発行、ウォレット間の移転、スマートコントラクト上の状態などが記録されます。

この記録によって、デジタルデータそのものをコピー不可能にするのではなく、どのトークンをどのアドレスが保有しているかを追跡できます。画像のコピー可能性と、トークンの所有記録は別の層にあります。

コピーできる画像をなぜ所有するのか

デジタル画像は容易にコピーできます。NFTはコピーを禁止する技術ではありません。むしろ、誰でも同じ画像を見ることができる状況の中で、特定のトークンの保有履歴を区別する仕組みを作りました。

これは「画像を独占する所有」より、作品に関連する特定の記録を保有する所有に近い場合があります。NFT Artの歴史では、このデジタル複製と希少性の共存が中心的な問題になりました。

2017年以前の前史

NFT文化を2017年から始めると、それ以前のブロックチェーン美術を見落とします。Kevin McCoyの《Quantum》は2014年5月3日にNamecoin blockchain上で登録された作品で、Sotheby’sは2021年《Natively Digital》で、NFTの歴史を考える重要な初期作品として取り上げました。

またSarah Meyohasは2015年に《Bitchcoin》を開始し、自身の作品価値とブロックチェーン上のトークンを結びつけました。Centre Pompidouは2023年、このプロジェクトの作品を収蔵し、ブロックチェーンを所有追跡、分割所有、芸術媒体として扱った先駆的実践と位置づけています。

2014年 Kevin McCoy《Quantum》

《Quantum》は色彩豊かな抽象アニメーションとブロックチェーン上の所有記録を結びつける実験でした。Sotheby’sの2021年出品記録では、2014年にNamecoinで最初にmintされ、2021年には作品の保存と販売のためERC-721トークンも作られています。

この事例は、NFTの保存が単純ではないことも示します。初期ブロックチェーン上の記録を、後年普及した標準や市場へどう接続するかという問題がすでに現れています。

2015年 Sarah Meyohas《Bitchcoin》

Meyohasの《Bitchcoin》は、暗号資産の仕組みを作家自身の制作経済へ導入したプロジェクトでした。後の一般的なNFT市場のように完成画像を一点ずつ売るだけではなく、作品価値とトークン、交換、所有の関係そのものを構成しました。

2021年には《Cloud of Petals》で用いたバラの花弁とBitchcoinを新たに結びつけました。ブロックチェーンを単なる販売システムではなく、作品の所有・価値・交換を設計する媒体として使っています。

2017年CryptoPunks

2017年6月、Matt HallとJohn WatkinsonによるLarva LabsはCryptoPunksを公開しました。10,000体の24×24ピクセルのキャラクターがアルゴリズムによって生成され、それぞれをEthereum上で個別に保有・取引できるようにしました。

Larva Labsによれば、制作時には現在のようなNFTの共通規格が存在しなかったため、独自のスマートコントラクトを構築しました。後にCryptoPunksはERC-721標準へ影響を与えた先行事例として参照されます。

最初は無料で配布された

CryptoPunksは当初、Ethereumウォレットを持つ利用者が取引手数料を除いて無料でclaimできる形式でした。10,000体はその後すべて取得され、二次市場で所有者同士が売買するようになります。

後年の高額取引だけを見ると、最初から希少高級品として設計されたように見えます。しかし出発点には、デジタル所有が実際に収集感覚を生むかを試す実験的な側面がありました。

生成されたキャラクターとPFP

CryptoPunksは髪型、眼鏡、帽子、肌、種類など複数の属性の組み合わせから生成されました。同じシリーズに属しながら、一体ずつ見た目と希少性が異なります。

後にこの形式はPFP(Profile Picture)プロジェクトの重要なモデルになります。NFTをウォレットで所有するだけでなく、SNSのプロフィール画像に使うことで、所有がオンライン上のアイデンティティやコミュニティ参加へ接続されました。

希少属性が価格を作る

同じ10,000体でも、属性の組み合わせや出現数が異なるため、市場では希少性が価格評価に組み込まれました。

ここでは美術市場の一点物概念と、トレーディングカードやゲームのレアリティ設計が接近します。作品の形式的評価だけでなく、コレクション内での統計的な希少性が価値を形成します。

2017年CryptoKitties

同じ2017年、Axiom ZenのチームはCryptoKittiesを公開しました。Dapper Labsはこれを、NFTを一般消費者へ広く認知させた最初期の利用例として振り返っています。

利用者はそれぞれ固有のデジタル猫を所有し、異なる個体をbreedingして新しい猫を生み出すことができます。NFTが静的な画像所有だけでなく、ゲーム的なルールと世代生成を持つデジタル資産として機能しました。

所有物が新しい所有物を生成する

CryptoKittiesでは、二つの猫の特性をもとに別の猫が生成されます。所有しているトークンがゲーム内部で次のトークン生成へ関わる点が重要です。

絵画コレクションでは所有作品同士を組み合わせて新作品を自動生成することは通常ありません。ブロックチェーン上のデジタル所有が、プログラム可能な所有へ展開した例です。

人気がインフラ問題を可視化する

CryptoKittiesの急速な人気は、Ethereum上で大量の取引を発生させ、ブロックチェーンの処理能力や取引手数料が利用体験へ直接影響することを広く意識させました。

デジタル美術を収集する行為が、作品と観客だけでなく、ブロックチェーン全体の技術性能や手数料市場へ依存することが見えるようになります。

2018年ERC-721

2018年1月24日、Ethereum Improvement ProposalとしてERC-721が作成されました。William Entriken、Dieter Shirley、Jacob Evans、Nastassia Sachsが著者として名を連ねています。

ERC-721は、個々に区別されるトークンについて所有者を確認し、移転し、第三者へ操作権限を与える共通インターフェースを定めました。この標準化が、その後のNFTマーケットプレイスやウォレットの相互運用性を大きく支えました。

ERC-721はNFTの「発明日」ではない

ERC-721の正式化以前にもCryptoPunks、CryptoKitties、《Quantum》など固有のデジタル資産をブロックチェーンで扱う実践が存在しました。

したがって2018年をNFTの誕生とするより、それまで個別に実験されていた仕組みを一般化し、共通のインフラとして扱いやすくした重要な標準化の段階と考える方が正確です。

ERC-721とメタデータ

ERC-721のメタデータ拡張では、作品名、説明、画像を示すURIなどを記述できます。画像ファイルそのものを必ずブロックチェーン内へ保存する仕様ではありません。

標準文書ではすべてのメタデータをブロックチェーンへ保存する方法も検討されましたが、コストが高いことから必須方式にはされませんでした。この設計が後のNFT保存問題にもつながります。

オフチェーン保存

多くのNFTでは、トークンが指す画像や動画が外部サーバーや分散型ファイルシステムに保存されています。

トークンがブロックチェーン上に残っていても、参照先のファイルが消えたりURIが変更されたりすれば、同じ作品経験を維持できない可能性があります。「ブロックチェーンだから永久保存」という説明は作品ごとの保存構造を確認しなければ成立しません。

オンチェーン作品

一方、作品を生成するコードや主要データまでブロックチェーン上へ保存する方法もあります。Larva LabsのAutoglyphsや、後のArt Blocksはオンチェーン生成美術の重要な実践になりました。

オンチェーンであっても、表示に使うブラウザや外部ライブラリなど別の依存関係が存在する場合があるため、保存の問題が完全に消えるわけではありません。それでも中央サーバーがなくなっただけで作品へアクセスできなくなるリスクを減らすことができます。

2018年SuperRare

SuperRareは2018年に開始され、1/1のデジタル作品を中心に扱うNFTアート・マーケットプレイスとして発展しました。

大量のコレクティブルだけでなく、個々のデジタル作家が一点物または限定的な作品をmintし、収集家へ販売し、二次市場でも取引できる環境が整います。NFTがゲームやキャラクターだけでなく、デジタル美術市場のインフラとして使われるようになりました。

「1/1」というデジタル一点物

デジタルファイルはコピーできますが、NFTでは一つのトークンだけを作品の正規の1/1として発行できます。

ここで一点物なのは画像データそのものの複製不可能性ではなく、作家やプラットフォームが特定のトークンを正規の作品として設定したことです。デジタル美術に、物理作品とは異なる方法でエディションと希少性を作る仕組みが生まれました。

来歴を公開記録として追う

NFTの移転履歴はブロックチェーン上で確認できます。どのウォレットからどのウォレットへトークンが移動したかという履歴を、第三者も検証できます。

従来の美術市場では来歴資料がギャラリー、オークション会社、所有者の文書に分散することがあります。NFTは取引履歴の一部を公開台帳へ置きました。ただしウォレットアドレスだけでは現実の個人名が分からない場合もあり、来歴が完全に透明になったわけではありません。

ウォレットと所有

NFTの保有はブロックチェーン上のアドレスと結びつきます。利用者は秘密鍵やウォレットを通して、そのアドレスからトークンを移転します。

そのため美術作品の保管は、作品ファイルだけでなく秘密鍵管理やセキュリティの問題にもなります。鍵を失えばトークンへアクセスできなくなる可能性があり、盗難や詐欺もコレクション管理の現実的な問題になりました。

スマートコントラクト

NFTの発行や移転には、ブロックチェーン上で実行されるプログラムであるスマートコントラクトが使われます。

「contract」という名前ですが、それだけで法律上の契約のすべてを自動的に置き換えるわけではありません。どの権利を誰に与えるか、著作権やライセンスをどう扱うかは、コード以外の利用条件や法制度も関係します。

二次販売ロイヤリティという期待

NFTが美術家にとって魅力的だと語られた理由の一つが、二次販売時にも作家へ報酬を戻せる可能性でした。

従来の美術市場では、作品が後に高額転売されても、地域の追及権制度などを除けば作家へ自動的に利益が戻るとは限りません。NFT市場ではマーケットプレイスやスマートコントラクトを通じ、再販売価格の一定割合をクリエイターへ支払う仕組みが導入されました。

2020年ERC-2981

2020年9月、NFTのロイヤリティ情報を標準化するERC-2981が提案されました。トークンの販売価格に対して、誰へどれだけのロイヤリティを支払うべきかを取得できる共通方式です。

ただし標準文書は、ロイヤリティ支払いそのものは自動強制ではなく、マーケットプレイスなどが自主的に実装する仕組みであると明記しています。「ブロックチェーンなら転売のたび必ず作家へ自動送金される」という説明は正確ではありません。

ロイヤリティをめぐる市場競争

2022–23年には、取引手数料やクリエイター・ロイヤリティを低く設定するマーケットプレイスが利用者を集め、従来のロイヤリティ慣行が揺らぎました。

DappRadarは2023年、Blurのような低ロイヤリティ型市場の拡大によって、大手NFTプロジェクトのロイヤリティ収入が大きく変化したと報告しています。技術的に設定できることと、市場全体で強制できることは別だという問題が明確になりました。

2019年Autoglyphs

Larva Labsは2019年、オンチェーン生成美術《Autoglyphs》を発表しました。生成アルゴリズム自体をEthereum上で実行し、トークン生成時に幾何学的な文字パターンを作るプロジェクトです。

CryptoPunksがデジタルキャラクターの所有を中心にしたのに対し、Autoglyphsではブロックチェーンが作品を記録するだけでなく、生成条件そのものに深く関わります。

NFT以前から存在した生成美術

生成美術そのものはNFTによって始まったわけではありません。1960年代以降、作家はアルゴリズム、プロッター、乱数、コンピューター・プログラムを利用してきました。

NFTが変えたのは、生成アルゴリズムによって作られる個々の出力を、ブロックチェーン上で発行・所有・売買する仕組みです。美術形式の新しさと、市場・所有インフラの新しさを分けて考える必要があります。

2020年Art Blocks

2020年、Erick Calderon(Snowfro)はArt Blocksを設立し、最初のプロジェクトとして《Chromie Squiggle》を公開しました。

Art Blocksでは作家が生成アルゴリズムを登録し、収集者がmintを実行した瞬間にハッシュ値をもとに一つの出力が生成されます。購入前に最終形を完全には選べないという仕組みが、生成美術と収集行為を直接結びつけました。

購入行為が作品生成の瞬間になる

通常の美術市場では、作品は完成した後に購入者が選びます。Art Blocksではmintが一つの生成処理を起動し、そこで初めてそのトークン固有の作品が現れます。

収集者は完成品を選ぶだけでなく、アルゴリズムから未知の結果を生成する過程へ参加します。市場取引と制作行為が同じ技術的イベントへ接続しました。

コードが作品の核になる

Art Blocksでは、見えている画像だけでなく、それを生成するアルゴリズムが作品の中心にあります。

同じコードから多数の作品が生成されても、各トークンは異なるハッシュを持ち、それによって固有の出力が決定されます。作者性は一枚ずつ描く行為より、可能な結果の範囲を設計する行為へ移ります。

2020年のオンライン化とNFT

2020年のCOVID-19パンデミックによって美術館、ギャラリー、アートフェアの物理開催が制限され、オンライン展示とデジタル販売への関心が急速に高まりました。

NFT市場の成長をパンデミックだけで説明することはできませんが、デジタル作品をオンラインで発見・購入する行為が一般化した社会状況は、暗号資産市場の活況と重なりました。

2021年 — NFTが一般美術市場へ入る

2021年、NFTは暗号資産コミュニティ内部の現象から、国際的な美術市場と一般報道の中心的話題へ急速に移りました。

Christie’s、Sotheby’sなど歴史あるオークションハウスがNFT作品を大規模に扱い、従来の現代美術コレクターと暗号資産由来の新しい収集家層が接触するようになります。

Beeple《EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS》

Mike Winkelmann、通称Beepleは2007年から毎日一つのデジタル画像を制作・公開する《Everydays》を継続してきました。

2021年、最初の5,000点を一つの巨大なデジタル・コラージュへまとめた《EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS》がNFTとしてChristie’sに出品されました。単発のAI生成画像ではなく、約13年半にわたるオンライン制作の蓄積を一つの作品へまとめたものです。

2021年3月11日 6,934万6,250ドル

Christie’sのオンライン単独オークションで、《EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS》は69,346,250ドルで落札されました。

Christie’sはこれを、主要オークションハウスが扱った最初の純粋なデジタルNFT作品として位置づけ、当時、生存作家のオークション価格として第3位に相当すると発表しました。NFTが従来の美術市場へ認識される大きな節目でした。

価格と美術史的評価を分ける

Beepleの落札価格はNFT Artの歴史で無視できない出来事ですが、高額で売れたこと自体が作品の美術史的価値を確定するわけではありません。

オークション価格は市場需要、暗号資産価格、話題性、希少性、収集家間の競争など複数要因によって形成されます。市場史と作品評価は区別して記述する必要があります。

暗号資産と伝統的オークションの接続

Beepleの販売は、NFTを既存のオークション制度へ持ち込むと同時に、暗号資産を保有する新しい収集家層をChristie’sへ引き寄せました。

Christie’sによれば、オークション終盤には世界各国から多数の入札者が参加しました。デジタル作品の販売が、伝統的な美術市場の顧客構成やオンライン販売モデルにも影響を与えました。

2021年CryptoPunksが大手オークションへ

2021年5月、Christie’sはLarva Labsが保有していた9体のCryptoPunksを21st Century Evening Saleへ出品し、総額16,962,500ドルで落札されました。

同年6月にはSotheby’sがCryptoPunk #7523を11,754,000ドルで販売しました。数年前に無料配布された24×24ピクセルのキャラクターが、戦後・現代美術の高額オークションと同じ制度へ入ったことは、デジタル収集文化の急激な制度化を象徴しました。

2021年Sotheby’s《Natively Digital》

Sotheby’sは2021年6月、《Natively Digital: A Curated NFT Sale》を開催しました。

Kevin McCoy《Quantum》、CryptoPunks、Art Blocks、Rhea Myers、Pak、Mario Klingemannなどを並べ、NFTを単一の流行ではなく、初期ブロックチェーン美術、生成美術、コンセプチュアルな実践まで含む歴史としてキュレーションしようとしました。

オークションが歴史を作る

オークションハウスは作品を販売する場所ですが、何を「歴史的NFT」として選び、説明するかによって美術史的な物語形成にも参加します。

《Natively Digital》が《Quantum》を最初期NFTとして位置づけ、CryptoPunksとArt Blocksを同じ販売企画へ入れたことは、市場とキュレーションの境界が近づいた例です。

World Wide WebのソースコードまでNFTになる

2021年6月、Tim Berners-LeeはWorld Wide Webの初期ソースコードに関連するデジタル資料をNFTとしてSotheby’sへ出品し、540万ドルで落札されました。

ここでは作品の美的画像というより、インターネット史のデジタル資料とNFT所有記録が結びつきます。NFTが美術画像だけでなく、歴史的デジタル資料を市場化する仕組みにも使われたことを示します。

PFPの拡大

2021年にはCryptoPunksに続く多数のPFPプロジェクトが急成長しました。所有者がSNSのプロフィール画像として使い、Discordなどのコミュニティへ参加する文化が広がります。

この場合NFTの価値は画像単体だけではありません。特定コミュニティへの所属、イベント参加、商用利用権、将来の特典への期待など複数の要素が組み合わされます。

所有がコミュニティ参加証になる

ウォレットで特定NFTを保有していることを確認すれば、オンライン・コミュニティ、限定コンテンツ、イベントなどへのアクセス条件にできます。

作品を所有することが、物を持つだけでなく、ネットワーク上の会員資格のように機能する場合があります。NFTは美術作品、コレクティブル、会員証の境界を曖昧にしました。

PFPを美術とコレクティブルのどこに置くか

PFPプロジェクトは美術作品、デザイン商品、ゲーム資産、ブランド、コミュニティのいずれとしても扱われ得ます。

すべてのNFTを現代美術と呼ぶことも、すべてを単なる投機商品とすることも適切ではありません。個々のプロジェクトがどの制度、制作意図、批評文脈に位置しているかを分けて考える必要があります。

2022年CryptoPunksの知的財産権がYuga Labsへ

2022年3月、Yuga LabsはLarva LabsからCryptoPunksとMeebitsのブランド、作品著作権などの知的財産権を取得しました。

この出来事は、NFT所有者がトークンを持っていても、シリーズ全体の知的財産権は別主体が保有できることを分かりやすく示します。Yuga Labsは取得後、個々のトークン所有者へ商用利用権を付与する方針を発表しました。

トークン、作品、ブランド、ライセンス

CryptoPunksの事例では、個々のNFT、キャラクター画像、CryptoPunksというブランド、著作権、所有者に与えられる利用ライセンスを別々に考える必要があります。

NFT市場は「デジタル所有」という一語で語られやすい一方、実際には複数の権利層が重なっています。

2021年の市場急拡大

Chainalysisの集計では、2021年にNFTマーケットプレイスへ送られた暗号資産価値は約400億ドルに達しました。

ただし、この数字をそのまま「美術作品の年間売上」と読むことはできません。NFT市場にはコレクティブル、ゲーム資産など美術以外の分野も含まれ、同じ資産の反復売買や市場構造も影響します。

収集と投機が重なる

NFTでは取引履歴と市場価格が公開され、24時間取引できるマーケットプレイスも多くあります。そのため作品鑑賞と価格変動の確認が同じ画面上で行われます。

価格が上がることへの期待が購入動機になる場合、収集と金融投機を明確に分けることが難しくなります。一方、すべてのNFT購入を投機とみなせば、作家支援やデジタル作品収集の実践を見落とします。

floor priceという評価

PFPコレクションでは、シリーズ内で現在販売されている最安値をfloor priceとして参照する文化が広がりました。

これは個別作品の質を一つずつ評価する従来の美術市場とは異なり、コレクション全体を一つの市場商品として測る方法です。NFT市場では作品、シリーズ、金融指標が接近します。

ウォレットが収集家プロフィールになる

ブロックチェーン上では、あるウォレットがどのNFTを保有しているかを公開情報から確認できる場合があります。

これによってコレクションそのものがオンライン上の自己表現になります。美術収集が私邸や倉庫に置かれた非公開の行為から、ウォレットを通じて可視化される文化へ広がりました。

匿名性と実名性

ウォレットアドレスは実名を直接表示しないため、NFT市場では匿名・仮名の収集家や作家が重要な役割を持ちました。

しかし取引履歴は公開されているため、匿名であることと行動が見えないことは同じではありません。ウォレットの活動が公開され、後から実名と結びつく場合もあります。

取引量をそのまま需要とみなさない

NFT市場では、同一主体が複数ウォレットを使って売買するなど、人為的に取引量を増やすwash tradingが問題になりました。

そのため取引総額だけで市場の実需や美術的評価を測ることには注意が必要です。オンチェーン・データが公開されていても、その数字の意味を解釈する作業が必要になります。

エネルギー消費をめぐる批判

2021年のNFTブームでは、Ethereumが当時採用していたProof of Workのエネルギー消費が大きな批判点になりました。

NFT作品の環境負荷を論じる際には、作品ファイルの大きさだけでなく、そのトークンを記録するブロックチェーンの合意形成方式を考える必要があります。また、すべてのブロックチェーンが同じ消費構造ではありません。

Proof of WorkとNFT

Proof of Workでは、ネットワークの安全性を維持するために計算資源を使うマイニングが行われます。

Ethereum上のNFT市場が急拡大した2021年には、作品のmintや取引がエネルギー集約的なネットワークへ依存していることが、美術家や美術機関の倫理的判断にも影響しました。

2022年Ethereum The Merge

2022年9月15日、EthereumはThe Mergeを実行し、Proof of WorkからProof of Stakeへ移行しました。

Ethereum公式資料は、この変更によってネットワークのエネルギー消費が約99.95%削減されたとしています。Ethereum上のNFTをめぐる環境議論にとって大きな技術的転換でした。

The Mergeで環境問題がすべて消えたわけではない

エネルギー消費の大幅削減は重要ですが、デジタル作品に環境負荷がなくなったことを意味しません。

データセンター、端末、ネットワーク、ディスプレイ、保存、暗号資産関連インフラには物理的な資源と電力が必要です。またEthereum以外のブロックチェーンでは異なる方式が使われています。

2022年 — 市場の成長が不安定になる

Chainalysisは2022年5月時点で、NFT市場への資金流入が2021年の爆発的成長から月ごとに大きく変動する状態へ移ったと報告しました。

2月中旬から3月中旬にかけてNFTマーケットプレイスへ送られる資産価値が大きく減るなど、価格上昇が一方向に続く市場ではないことが明確になります。

NFT市場は暗号資産市場から独立していない

多くのNFTはETHなどの暗号資産で価格付けされるため、トークン価格が同じでも法定通貨換算の価値は暗号資産相場によって変化します。

NFT価格の変化を美術作品への需要だけから説明すると、暗号資産全体の市場変動、流動性、金利環境などを見落とします。

2022–23年 取引所間競争とロイヤリティ

市場が収縮すると、NFTマーケットプレイスは手数料やクリエイター・ロイヤリティをめぐって激しく競争しました。

2023年にはBlurなどが市場シェアを伸ばし、OpenSeaの支配的地位が低下しました。NFTが作家へ継続収入を保証するという初期の説明は、マーケットプレイスのルール変更によって再検討されることになります。

2023年 — 価格低下と取引の継続

DappRadarの2023年年間報告では、NFT取引量は前年から49%減少して126億ドルとなった一方、販売件数は増加したとされています。

同社のデータでは平均販売価格も大きく低下しました。したがって2023年を「NFTが完全に消滅した年」とするのも、「市場が以前と同じ規模で続いた」とするのも正確ではありません。高価格中心の熱狂が後退しながら、より低価格の取引は継続しました。

NFT市場とNFT Artを同じにしない

NFT市場統計にはゲーム、スポーツ、PFP、会員証、ドメイン、仮想土地など多様なトークンが含まれます。

市場全体の取引量が下落したことを、そのままブロックチェーンを使う美術実践の価値低下と読み替えることはできません。美術史と暗号資産市場史は重なりますが同一ではありません。

2023年Centre Pompidouによる収蔵

2023年2月、Centre Pompidouはブロックチェーンと芸術制作の関係を扱う18プロジェクト、13組の作家による作品群をコレクションへ加えると発表しました。

同館は、近現代美術を扱う主要機関として初めてこの規模でNFTを含むブロックチェーン関連作品を収蔵したと説明しています。CryptoPunk #110、Sarah Meyohas《Bitchcoin》などが含まれました。

市場の流行ではなく選択的に収蔵する

Centre Pompidouの発表は、NFTのコレクティブル現象全体を称賛することより、ブロックチェーンを創作上批評的・実験的に使う作品を選択する方針を明確にしました。

プレス資料では、市場の過熱を超えて、美術作品、作者、コレクション、観客の定義を変える実践を歴史的視点から検討することが目的とされています。

NFTを既存の非物質美術史へ接続する

Centre Pompidouはブロックチェーン作品を、20世紀以降の非物質化、証明書、Conceptual Art、New Media Artの歴史とも接続しています。

この視点ではNFTは突然現れた完全に新しい所有方式ではありません。作品が物体ではなく、指示、証明、契約、記録によって成立してきた美術史の延長上で考えることができます。

証明書としてのNFT

Conceptual ArtやPerformance Artでは、証明書や設置指示が作品の真正性と再制作を支える例があります。

NFTも作品そのものではなく、作品との関係を示す証明・登録として機能する場合があります。ただしブロックチェーンへ記録されたからといって、その記録内容が自動的に真実になるわけではありません。誰が正当な権利者としてmintしたかを確認する必要があります。

無断mintという問題

技術的には、他人の作品を参照するNFTを無断で作成することも可能です。

WIPOは、ブロックチェーン上の記録が変更困難であることと、その記録内容が正当な権利主張であることは別だと指摘しています。真正性は技術だけでなく、作家、契約、プラットフォーム、法制度から確認する必要があります。

「永久に残る」という言葉に注意する

ブロックチェーンの記録は高い耐改変性を持ちますが、それだけで作品のすべてが永久保存されるわけではありません。

外部URL、IPFSのpinning、ウェブブラウザ、依存ライブラリ、ウォレット・インターフェースなど、作品を表示・実行する別の技術が必要な場合があります。保存ではトークンだけでなく作品全体の依存関係を確認する必要があります。

分散型保存も自動的な永久保存ではない

IPFSのような分散型ファイルシステムは、ファイル内容にもとづくアドレスを使い、中央サーバーだけに依存しない保存を可能にします。

しかしネットワーク上で誰もそのファイルを保持し続けなければ、常に取得可能とは限りません。NFT Artの保存は、ブロックチェーン、ファイル保存、ソフトウェア、組織的な維持を組み合わせる問題です。

オンチェーン生成美術と保存

Art Blocksは、作品の生成コードをEthereum上へ記録することで、特定企業の画像サーバーがなくても作品を再構成できる方向を追求しました。

オンチェーンという技術的選択は、単なる暗号資産文化の象徴ではなく、デジタル美術を長期保存する方法についての美学的・制度的判断にもなります。

美術館がウォレットを持つ

NFTを収蔵する美術館は、物理作品とは異なる管理方法を必要とします。ウォレット、秘密鍵、スマートコントラクト、メタデータ、作品ファイル、表示環境を保存・管理しなければなりません。

作品を収蔵庫へ運ぶのではなく、ブロックチェーン上のトークンを安全に管理することがコレクション管理の一部になります。

NFT作品を美術館でどう見せるか

NFTは所有技術であり、特定の展示装置を自動的に決めません。画像ならスクリーンやプリント、生成作品ならブラウザやコンピューター、映像ならプロジェクションなど、作品ごとに展示条件が異なります。

「NFT展」として同じディスプレイに作品を並べるだけでは、それぞれの作品の媒体や制作意図を均質化する危険があります。

マーケットプレイスが鑑賞空間になる

多くの人がNFT作品を初めて見る場所は美術館ではなく、OpenSea、SuperRareなどのマーケットプレイスでした。

作品画像の隣に価格、所有者、入札、取引履歴が表示されます。鑑賞と市場情報が分離されず、作品を見る画面が同時に売買画面でもある点は、NFT Artの視覚文化を特徴づけました。

価格が作品の横に常に表示される

従来の美術館では作品価格は通常表示されません。ギャラリーでも価格表を別に確認することがあります。

NFTマーケットプレイスでは、現在価格、過去の販売価格、所有履歴が作品のすぐ隣に表示される場合があります。経済価値が作品の受容から切り離しにくくなります。

投機そのものが作品文脈になる

NFT Artには、市場の価格変動、暗号資産文化、金融化を批判的に扱う作品もあります。

ブロックチェーンを使うことが市場肯定を意味するわけではありません。むしろトークンの価格、所有、取引を作品構造に含めることで、価値がどのように作られるかを可視化する実践も存在します。

作家と収集家の距離

NFT市場では、作家と収集家がSNSやDiscordを通じて直接交流する場合があります。

従来のギャラリーが仲介していた販売・広報・コミュニティ形成の一部を、作家自身が担うことも増えました。一方で、マーケットプレイスやSNSという別のプラットフォームへの依存も生まれます。

「仲介者が不要になる」という約束

ブロックチェーンは、ギャラリーやオークションハウスなしに作家が直接販売できる仕組みとして語られました。

実際に直接販売は可能になりましたが、人気マーケットプレイス、キュレーター、インフルエンサー、DAO、SNS、オークション会社など新しい仲介者も形成されました。仲介が消えたというより、仲介構造が再編されたと見る方が正確です。

新しい開放性と新しい門番

誰でもmintできるサービスは参入障壁を下げました。一方、作品が大量に発行されるほど、誰に発見されるかが重要になります。

プラットフォームの選定、SNSのフォロワー、著名収集家の購入、キュレーション、ランキングなどが可視性を左右します。従来の美術制度とは異なる新しい門番が生まれました。

DAOと共同収集

NFT文化ではDAO(Decentralized Autonomous Organization)を通じて複数人が資金を集め、作品購入やプロジェクト運営を行う例も広がりました。

すべてのDAOが完全に分散的でも民主的でもありませんが、コレクション形成や文化活動をトークン保有者による投票と組み合わせる新しい組織モデルが試されました。

ArtとCollectibleを区別できるか

CryptoPunksのような作品は、生成美術、デジタル・コレクティブル、PFP、歴史的NFTのすべてとして語られます。

どの分類だけが正しいかを決めるより、同じ対象が異なる制度で異なる役割を持つことを見る方が有効です。美術館ではデジタル美術史として、マーケットプレイスでは資産として、SNSではアイデンティティとして機能します。

Conceptual Artとの接続

NFTをめぐる所有と証明の問題は、Conceptual Art以降の作品証明、契約、指示書の歴史と比較できます。

物体そのものより、どの記録が正規作品を定義するかという問いはNFT以前から存在しました。ブロックチェーンはその証明を分散台帳上へ移し、新しい市場と技術条件を加えました。

非物質化と再物質化

1960年代末以降、美術の「非物質化」が論じられましたが、デジタル作品も完全に物質から自由ではありません。

NFTはサーバー、コンピューター、ネットワーク、電力、ディスプレイに依存し、販売時にはときに物理ディスプレイや証明書と組み合わされます。非物質的所有のように見える仕組みの背後に物理インフラがあります。

何でもtokenizeできるという発想

NFT技術は画像だけでなく、音楽、映像、ゲーム資産、チケット、会員証、物理作品との証明など多様な対象へ適用されました。

「tokenization」は既存資産をデジタル・トークンと結びつけ、移転可能な記録として扱う考えです。美術ではこの技術が所有証明を拡張する一方、すべての文化物を取引可能な資産へ変える金融化への批判も生みました。

美術の金融化

NFT市場では作品価格がリアルタイムに公開され、暗号資産と交換され、短期間で再販売されることがあります。

この速度は、美術を長期的に収集・鑑賞する文化とは異なる投資的行動を促す場合があります。NFTが美術を金融化したという批判は、この流動性と価格可視化に向けられました。

それでもNFTを金融商品だけに還元しない

一方で、NFT技術を使った全作品を投機商品として一括りにすると、《Bitchcoin》、Art Blocksの生成美術、オンチェーン作品、コンセプチュアルなブロックチェーン批評などの差が消えます。

作品評価では、価格チャートだけでなく、なぜブロックチェーンを使う必要があるのか、その技術が作品の意味とどう関係しているのかを見る必要があります。

2023年の美術館収蔵が意味したもの

Centre Pompidouの収蔵は、2021年の市場熱狂から少し距離を置いた時期に行われました。

同館は市場価格の高いNFTを単純に集めるのではなく、ブロックチェーンが作品、作者、収蔵、観客、所有をどう変えるかを示す作品群を選びました。NFTを短期的な市場現象から、美術史研究と保存の対象へ移す動きとして重要です。

CryptoPunk #110の収蔵

Centre Pompidouには2023年、寄贈によってCryptoPunk #110が収蔵されました。

10,000体の一つを美術館が取得することで、CryptoPunksはオンライン・コレクティブルとしてだけでなく、2010年代後半のデジタル所有文化を示す歴史資料・美術作品としても制度化されます。

美術館は何を収蔵しているのか

NFTを収蔵するとき、美術館が管理する対象はトークンだけではありません。作品ファイル、スマートコントラクト、ライセンス、表示方法、保存情報などが必要です。

デジタル所有を記録する技術であるNFT自体が、作品保存のすべてを自動化するわけではありません。むしろ従来とは異なる保存実務を美術館へ要求します。

2017–2023年に何が変わったのか

2017年、CryptoPunksは10,000体の生成キャラクターをEthereum上で所有・取引する実験を行い、CryptoKittiesは個別トークンをゲーム的に生成・繁殖させる仕組みを一般利用者へ広げました。2018年ERC-721がNFTの共通規格として標準化され、SuperRareのような市場によってデジタル作家の1/1作品を収集・二次販売する環境が整います。

2019年Autoglyphs、2020年Art Blocksは、ブロックチェーンを所有記録だけでなく生成美術そのものへ深く組み込みました。コードから作品が生成され、mintと制作の瞬間が結びつきます。同時にERC-2981のようなロイヤリティ標準が提案され、作家へ二次販売収入を還元する新しい市場モデルが期待されました。

2021年Beeple《EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS》がChristie’sで69,346,250ドル、CryptoPunk #7523がSotheby’sで11,754,000ドルで落札され、NFTは世界的な美術市場の中心的話題になります。Sotheby’s《Natively Digital》は《Quantum》からArt Blocksまでを歴史的文脈の中で並べ、NFTの系譜を市場自らが組み立てました。

しかし2022年以降、市場は大きく変動し、クリエイター・ロイヤリティの実効性、暗号資産価格への依存、投機、保存、著作権、環境負荷などの問題が明確になります。2022年9月のEthereum The Mergeはエネルギー消費を大幅に削減しましたが、市場構造や権利問題まで解決したわけではありません。

2023年には取引価格の低下と市場収縮が進む一方、Centre PompidouがNFTを含む18のブロックチェーン関連プロジェクトを収蔵しました。NFTは一時的な価格熱狂から離れ、デジタル美術の所有・保存・生成・流通をどのように変えたのかを、美術史と制度が検証する段階へ入りました。

NFTが残したもの

2021年のような熱狂が弱まっても、NFTが提示した問題は残りました。デジタル作品に希少性をどう設定するか。作品と所有記録をどう分けるか。作家へ二次流通の利益をどう還元するか。オンライン作品を美術館がどう保存するか。

そして、所有をブロックチェーンへ記録することが本当に必要な作品と、そうでない作品を区別することも重要になりました。NFTはデジタル美術の唯一の未来ではありませんが、デジタル作品を収集・売買・保存する制度を大きく揺さぶった技術文化でした。

次の時代へ — パンデミックと美術制度のオンライン化

NFT市場が急拡大した2020–21年は、COVID-19によって美術館、ギャラリー、アートフェアが長期間閉鎖・制限された時期とも重なります。展覧会、アートフェア、販売、教育、トークイベントは急速にオンラインへ移行しました。

次の記事では、2020–2023|COVID-19と美術制度 — 閉館、オンライン展示、OVR、アート市場の再編として、美術館の閉館、オンライン・ビューイング・ルーム、Art Baselなどのデジタル化、作家支援、再開後の制度変化までを追います。

参考資料・出典

本ページは、美術館、研究機関、ブロックチェーン技術の標準仕様、作家・プロジェクト公式資料、オークションハウス、知的財産機関、市場調査資料等を参照してART LIBRARYが独自に構成・執筆しています。「NFT Art」を一つの統一された美術運動とは扱わず、ブロックチェーン上の非代替性トークンを作品制作、所有記録、生成、流通、市場、保存へ用いた複数の実践として記述しています。また、NFTの保有と著作権の保有、トークンと関連作品ファイル、オンチェーンとオフチェーン、技術的なロイヤリティ情報と実際の支払いを区別しています。市場データは集計方法によって異なるため、特定の調査機関の数値をNFT Art全体の美術的評価へ直接置き換えていません。原文の全文翻訳ではありません。

資料確認日:2026年10月1日 / ART LIBRARY