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2019–2025

気候危機と美術

Eco Art、美術館抗議、スポンサー、持続可能性

2019年以後、気候危機は現代美術の主題であるだけでなく、美術制度そのものの運営問題になりました。環境変化を扱う作品は以前から存在していましたが、この時期には美術館やギャラリーが自らの炭素排出、建物のエネルギー、作品輸送、国際出張、梱包材、スポンサーシップまで検討対象にし始めます。文化機関が気候危機について展覧会を開催しながら、その展覧会を大量の航空輸送と強力な空調で成立させているなら、作品のメッセージと制度の実践を切り離せるのかという問いが生まれました。

2019年4月には英国でCulture Declares Emergencyが始まり、同年7月にTateが気候非常事態を宣言しました。9月にはInternational Council of Museums(ICOM)がKyotoで持続可能性とAgenda 2030に関する決議を採択し、美術館自身がcarbon footprintを認識し削減する役割を明確にします。同じ年、Triennale Milano《Broken Nature》やTate Modern《Olafur Eliasson: In Real Life》は、人間と環境の関係を大規模な文化機関の中心的テーマとして提示しました。

2020年にはGallery Climate Coalitionが設立され、2030年までに視覚芸術分野の温室効果ガス排出を最低50%削減するという数値目標を掲げます。航空移動、作品輸送、建物エネルギーを計測するCarbon Calculatorが作られ、作品を海上輸送へ切り替えること、梱包材を再利用すること、virtual courierを使うことなど、気候対応は抽象的な理念から実務へ移っていきます。

一方、2022年には気候活動家が美術館を抗議の舞台として選び、Vincent van Gogh《Sunflowers》へのスープ投擲などが世界的な議論を引き起こしました。活動家側は文化的に大切なものへの反応を通して気候危機への注意を促すと説明しましたが、美術館側は作品、職員、来館者の安全を守る責任を強調します。ICOMは両者の懸念を認めつつ、気候危機に対して美術館と市民社会が協働する必要を訴えました。

2023年にはHayward Gallery《Dear Earth》がAgnes Denes、Otobong Nkanga、Hito Steyerl、Richard Mosse、Daiara Tukanoらを通して、気候危機を採掘、生物多様性、先住民知、デジタル技術、careの問題として提示しました。同年、主要国際美術館のBizot GroupはGreen Protocolを刷新し、保存のための温湿度基準、作品輸送、virtual courierなどを低炭素化する方向を示します。2024年にはJohn AkomfrahがVenice Biennale英国館で、ecology、water、post-colonialism、migrationを重ねた《Listening All Night To The Rain》を発表しました。

本記事では「環境に見える作品」を並べるのではなく、作品、展覧会、抗議、スポンサー、保存、物流、建築を分けて追います。気候危機を表象することと、美術を成立させる制度そのものを変えることの間にある緊張を通して、2019–2025年に何が変わったのかを整理します。

CONTENTS

  1. 「気候危機と美術」を何として見るのか
  2. 一つの美術運動ではない
  3. 環境美術には長い前史がある
  4. 2019年という節目
  5. Culture Declares Emergency
  6. 宣言することと排出を減らすことは別である
  7. 2019年《Broken Nature》
  8. 「環境を表象する」から「関係を修復する」へ
  9. 2019年Olafur Eliasson《In Real Life》
  10. 《Ice Watch》を前史として考える
  11. 氷を運ぶこと自体の矛盾
  12. Little Sun — 作品と社会事業の境界
  13. 2019年7月 Tateが気候非常事態を宣言
  14. Tateが示した具体策
  15. 美術館はなぜエネルギーを使うのか
  16. 作品を守ることが環境負荷を生む
  17. ICOM 2019 Kyotoの持続可能性決議
  18. 美術館は「気候を教える場所」だけではない
  19. 2020年COVID-19と排出の一時的低下
  20. 2020年Gallery Climate Coalition設立
  21. 「Gallery」だがギャラリーだけではない
  22. 排出量を測定する
  23. 航空移動・輸送・建物
  24. 作品輸送の問題
  25. 「速く運ぶ」慣行を見直す
  26. 梱包材
  27. Virtual Courier
  28. Serpentine《Back to Earth》
  29. 長期プログラムとしての気候美術
  30. SerpentineのGeneral Ecology
  31. 2022年Barbican《Our Time on Earth》
  32. 人間中心主義への問い
  33. 2022年Venice Biennale Chile館《Turba Tol Hol-Hol Tol》
  34. 先住民知と気候美術
  35. 2022年、美術館が気候抗議の舞台になる
  36. 2022年10月14日《Sunflowers》へのスープ
  37. 美術館側への影響
  38. なぜ美術作品を標的にするのか
  39. ICOMの2022年声明
  40. 「美術館 対 気候活動家」と単純化しない
  41. 抗議による警備強化
  42. 作品保護とアクセスの緊張
  43. 化石燃料企業のスポンサー問題
  44. National Portrait GalleryとBP
  45. British Museumは2023年に新たなBP契約
  46. スポンサー判断に単純な答えはない
  47. 2023年Hayward Gallery《Dear Earth》
  48. 《Dear Earth》の多様な方法
  49. Otobong Nkanga — 採掘とケア
  50. Hito Steyerl《Green Screen》
  51. Richard MosseとAmazon
  52. Agnes Denesの再評価
  53. 2023年Bizot Green Protocol刷新
  54. 温湿度を完全に固定しない
  55. greener practice first
  56. 2023年UK Museum COP
  57. Tateの排出削減
  58. 展覧会内容と運営を一致させる
  59. 展覧会に炭素予算を設定する考え方
  60. offsetだけに依存しない
  61. Climate Justice
  62. 気候危機は美術館そのものを脅かす
  63. MitigationだけでなくAdaptation
  64. 2024年John Akomfrah 英国館
  65. 水を記憶の媒体として扱う
  66. 生態系と歴史を分離しない
  67. 2025年GCCの5年検証
  68. GCCデータを美術界全体へ一般化しない
  69. 美術界は成長しながら排出を減らせるか
  70. 国際性と気候負荷
  71. 現地制作という方法
  72. デジタル化も無炭素ではない
  73. 制作材料
  74. 一時的作品は必ず低環境負荷か
  75. 「緑っぽい見た目」と環境性を分ける
  76. 作品とアクティビズム
  77. 「care」が気候美術の語彙になる
  78. 希望を扱うこと
  79. 科学と芸術の協働
  80. データを体験へ変える
  81. 気候展と企業資金の整合性
  82. 制度は何を公開すべきか
  83. Scope 3の難しさ
  84. 来館者移動をどう考えるか
  85. 美術館同士で基準を共有する
  86. Protocolは法律ではない
  87. 2024年、抗議とアクセスの再調整
  88. 2025年までに何が定着したのか
  89. 2019–2025年に何が変わったのか
  90. 残された課題
  91. 次の時代へ — 2020年代半ばの美術と複合危機
  92. 参考資料・出典

「気候危機と美術」を何として見るのか

2019年以後、気候変動を扱う作品や展覧会は急速に増えました。しかし、環境を主題にした作品を集めるだけでは、この時期に美術界で起きた変化を十分に捉えられません。

同じ頃、美術館やギャラリー自身の建物、空調、作品輸送、国際出張、梱包、スポンサーシップが気候危機との関係から問い直されました。さらに2022年以降には、気候活動家が美術館を抗議の舞台として選び、作品保護と市民的不服従の関係が国際的な論争になります。

一つの美術運動ではない

本記事で扱うEco Art、気候危機をめぐる現代美術、文化機関の脱炭素化、気候抗議は、統一された一つの美術運動ではありません。

Olafur Eliasson、Otobong Nkanga、Hito Steyerl、Richard Mosse、John Akomfrahなどの制作目的はそれぞれ異なります。またGallery Climate Coalitionは作品を制作する集団ではなく、視覚芸術分野の排出削減を進める組織です。Just Stop Oilも美術運動ではなく、気候政策をめぐる抗議運動です。

環境美術には長い前史がある

環境を扱う美術は2019年に始まったわけではありません。1960年代以降、Land Art、Environmental Art、Eco Art、Social Practiceなどを通じ、土地、生態系、資源、産業、汚染、都市環境を扱う作家が活動してきました。

Agnes Denesのように1960年代末から生態学的問題を扱ってきた作家は、2023年Hayward Gallery《Dear Earth》にも参加しています。2019年以後の特徴は、こうした長い制作史と、気候非常事態という制度的宣言が強く接続したことです。

2019年という節目

2019年は、文化分野で「climate emergency」という言葉が制度的に広がった重要な年です。4月には英国でCulture Declares Emergencyが始まり、7月にはTateが気候非常事態を宣言しました。

同年9月にはKyotoで開催されたICOM総会が、持続可能性と国連Agenda 2030に関する決議を採択し、美術館・博物館が自らの環境負荷を減らしながら、持続可能な未来形成に参加する役割を明確にしました。

Culture Declares Emergency

Culture Declares Emergencyは2019年4月、芸術・文化分野の個人と組織が気候・生態系の非常事態を宣言し、行動へ移るためのネットワークとして英国で始まりました。

同団体は、文化が危機について語るだけでなく、組織自身の慣行を変え、社会的な想像力を通じて変化へ寄与することを掲げています。宣言は作品テーマだけではなく、組織運営を含むものとして設計されました。

宣言することと排出を減らすことは別である

気候非常事態を宣言することは、問題を公に認識する第一歩になります。しかし宣言そのものが排出削減を生むわけではありません。

その後の文化機関には、基準年の設定、排出量の計測、建物エネルギーの変更、出張・輸送方針の見直しなど、宣言を具体的な運営へ落とし込むことが求められました。

2019年《Broken Nature》

2019年3月から9月までTriennale Milanoで開催された第22回国際展は《Broken Nature: Design Takes on Human Survival》を中心テーマとし、MoMAのPaola Antonelliがキュレーションしました。

展覧会は、人間と自然環境を結ぶ関係が損なわれてきたことを前提に、restorative design、すなわち壊れた関係を修復・再構成するデザインの可能性を探りました。

「環境を表象する」から「関係を修復する」へ

《Broken Nature》の重要な点は、地球環境を危機のイメージとして見せるだけでなく、素材、生産、建築、食、社会制度を含む設計そのものを問題にしたことです。

気候危機に対する文化の役割を「意識を高める画像」に限定せず、社会システムの設計へ広げる考え方がここにあります。

2019年Olafur Eliasson《In Real Life》

2019年7月11日から2020年1月5日まで、Tate Modernは《Olafur Eliasson: In Real Life》を開催しました。Eliassonの英国での大規模回顧展で、光、水、霧、色、知覚と環境の関係を扱う作品が集められました。

Tateは同展で、Eliassonの実践が持続可能なエネルギーや気候非常事態への関心を含むことを明確に紹介しています。

《Ice Watch》を前史として考える

同展直前の2018年、Eliassonと地質学者Minik RosingはGreenlandから運ばれた氷塊をTate Modern前とBloombergの欧州本部前に置く《Ice Watch》をLondonで実施しました。

氷は展示期間中に溶け、観客は触れたり耳を当てたりできます。気候変動をグラフや写真として理解するのではなく、溶ける時間を身体的に経験させる方法でした。

氷を運ぶこと自体の矛盾

気候危機を扱う作品には、制作や輸送そのものが排出を生むという矛盾があります。《Ice Watch》のように大規模な物質移動を伴う作品では、メッセージと制作行為の環境負荷を切り離して考えることはできません。

2019年以後、美術界では「環境をテーマにする作品だから環境的である」という理解から、作品のライフサイクルまで問う方向へ議論が進みます。

Little Sun — 作品と社会事業の境界

EliassonとFrederik Ottesenが2012年に始めたLittle Sunは、太陽光で充電する小型ランプを通じ、電力アクセスと再生可能エネルギーを扱う社会事業です。

Tateは2019年展でもLittle Sunを紹介しました。ここでは作家の活動がギャラリーの展示物だけでなく、製品設計、流通、エネルギーアクセスへ広がっています。

2019年7月 Tateが気候非常事態を宣言

2019年7月17日、Tateの4館の館長は共同で気候非常事態を宣言しました。

声明は、美術館が作品を保管・展示する公共機関として資源を消費し、国際的な作品移動と人の移動に依存しているという「hard truths」を認めたうえで、組織のシステム、価値観、プログラムを見直すと表明しました。

Tateが示した具体策

2019年の宣言時、Tateは2023年までに炭素排出を少なくとも10%削減すること、4館で再生可能電力の料金プランへ移行すること、職員移動を監査しtrain-first policyを採用することなどを掲げました。

気候問題を展覧会テーマとして扱うだけでなく、組織の交通・エネルギー・飲食まで対象にしたことが重要です。

美術館はなぜエネルギーを使うのか

大型美術館では、照明だけでなく温度・相対湿度を一定範囲へ保つ空調設備が大きなエネルギーを消費します。

National Gallery of Victoriaは、美術館のHVACが館全体のエネルギー使用の60%以上を占める場合があると説明しています。保存環境を厳密に維持することと、排出削減を両立することが制度的課題になります。

作品を守ることが環境負荷を生む

美術館は作品を数十年、数百年先まで保存する使命を持ちます。そのため温湿度を厳密に管理してきました。

しかし気候危機が激化する中で、作品を守るために大量のエネルギーを使い続けることが、長期的には文化財を脅かす環境変化へ加担するという逆説が意識されるようになりました。

ICOM 2019 Kyotoの持続可能性決議

2019年9月7日、ICOM総会は持続可能性とAgenda 2030に関する決議を採択しました。

決議は、美術館・博物館が持続可能な未来形成へ役割を持つこと、自らのcarbon footprintを含む環境影響を認識・削減すること、教育・協働を通じて社会へ働きかけることを求めています。

美術館は「気候を教える場所」だけではない

ICOMの決議は、美術館が気候危機について展覧会や教育を行うだけでなく、自らの運営を変える必要性を含んでいます。

これは気候危機を外部の研究テーマとして展示するのではなく、美術館自身も排出主体であると認める転換です。

2020年COVID-19と排出の一時的低下

2020年、COVID-19による閉館と国際移動停止によって、美術界の航空出張、フェア参加、作品輸送は一時的に大幅減少しました。

しかしこれは計画された脱炭素化ではなく、活動停止による特殊な状況でした。再開後に排出が戻る可能性があるため、2019年などパンデミック前を基準年として長期削減を測る考え方が重要になります。

2020年Gallery Climate Coalition設立

Gallery Climate Coalition(GCC)は2020年、ギャラリー、アーティスト、非営利機関、アート業界事業者が視覚芸術分野の環境負荷削減へ共同で取り組むために設立されました。

現在GCCは、2019年またはパンデミック前の基準年から2030年までに業界のCO2e排出を最低50%削減し、near-zero wasteを目指すことを主要目標としています。

名称にはGalleryとありますが、GCCの会員は商業ギャラリーだけに限定されません。アーティスト、非営利機関、アートフェア関連企業、輸送事業者なども参加しています。

美術界の排出は一つの組織だけで完結しないため、輸送会社、展示会社、収集家などサプライチェーン全体を含む協働が必要になります。

排出量を測定する

GCCは視覚芸術分野向けのCarbon Calculatorを公開し、航空移動、作品輸送、建物エネルギーなど主要な排出源を計測できるようにしました。

作品テーマの善悪を論じるのではなく、組織の活動をCO2eという共通尺度で計測し、どこから削減するかを決める実務へ移すことが目的です。

航空移動・輸送・建物

GCCはギャラリー、機関、スタジオ、アート関連事業で共通する主要な排出源として、air travel、shipping、building energy consumptionを挙げています。

気候美術の議論が作品材料だけに集中すると、国際フェアへの航空移動や大規模空調といった、より大きな排出源を見落とす可能性があります。

作品輸送の問題

国際展やアートフェアでは、短い日程に合わせるため作品を航空貨物で運ぶことがあります。

GCCの資料では、同じ距離・重量なら航空貨物のCO2eは道路輸送のおよそ10倍、海上輸送のおよそ60倍になる目安が示されています。そのため輸送方法を変えることが大きな削減策になります。

「速く運ぶ」慣行を見直す

航空貨物から船便・道路・鉄道へ移すには、展覧会スケジュールを長期的に計画する必要があります。

気候対策は輸送会社だけの問題ではなく、開催日直前まで作品を確定するキュレーション、国際フェアの短い準備期間、収集家の即時配送要求など、美術界の時間感覚を変える問題でもあります。

梱包材

作品輸送では木箱、発泡材、プラスチック、テープなど多くの梱包材が使われます。

GCCのSustainable Shipping Campaignは、再利用可能または一般回収可能な梱包材を増やし、single-use plasticsを段階的に減らす目標を掲げています。作品保護と廃棄物削減を同時に考える必要があります。

Virtual Courier

高価・脆弱な作品の輸送では、所蔵館の担当者が現地へ同行し、開梱・設置を監督するcourier制度があります。

COVID-19期に遠隔映像を利用したvirtual courierが広がり、2023年のBizot Green Protocolでは、不要な航空移動を減らす方法として原則的に検討すべき実践に組み込まれました。

Serpentine《Back to Earth》

Serpentine Galleriesは2020年から長期プログラム《Back to Earth》を展開し、60組を超えるアーティスト、建築家、詩人、映画作家、科学者、思想家、デザイナーに環境危機への応答を依頼しました。

2022年6月から9月にはSerpentine Northで展覧会とライブ・プログラムが開催され、単発の「気候展」ではなく、数年にわたる研究・制作・キャンペーンとして位置づけられました。

長期プログラムとしての気候美術

気候危機は数か月の企画展で終わる問題ではありません。《Back to Earth》は、一つの会期に作品を集めて解散するのではなく、長期間にわたって新しい作品、protocol、initiativeを生み出す形式を採用しました。

美術機関のプログラム自体を短期イベント中心から継続的な関係形成へ変える試みとして見ることができます。

SerpentineのGeneral Ecology

SerpentineはGeneral Ecologyという枠組みのもとで、人間・非人間、植物、動物、菌類、技術などの境界を横断する研究と芸術プログラムを続けています。

気候問題を二酸化炭素だけに限定せず、生態系、他種との関係、技術、知識体系へ広げる傾向は、2020年代の環境美術を特徴づけます。

2022年Barbican《Our Time on Earth》

2022年5月から8月、Barbicanは《Our Time on Earth》を開催しました。芸術、デザイン、科学、音楽、哲学を横断し、気候非常事態をめぐる未来像を扱う大規模展です。

展示は人間を地球の中心に置くのではなく、数百万種の一つとして捉え、他種や生態系との関係を再考する方向を強調しました。

人間中心主義への問い

2022年Venice BiennaleのCecilia Alemaniも、人間を世界の固定的中心とみなす近代的な考え方を問い、他種や地球との相互依存を大きなテーマとして提示しました。

気候危機を扱う現代美術では、「人間が自然をどう守るか」という構図から、人間そのものが生態系の一部であるという見方へ移る作品が増えています。

2022年Venice Biennale Chile館《Turba Tol Hol-Hol Tol》

2022年Venice BiennaleのChile館《Turba Tol Hol-Hol Tol》は、Patagoniaのpeatlands(泥炭地)の保全を中心にしたプロジェクトでした。

La Biennaleは、泥炭地を地球の気候調整に極めて重要でありながら見過ごされがちな生態系として紹介し、Selk’namの言語・知識、科学、環境人文学を結びつける多感覚的インスタレーションとして位置づけています。

先住民知と気候美術

2020年代の気候美術では、先住民の環境知を西洋科学の「参考資料」としてのみ扱うことへの批判が強まりました。

Chile館のようなプロジェクトでは、土地、言語、祖先、政治的権利を切り離さず、生態系との関係を異なる知識体系から構成しようとします。

2022年、美術館が気候抗議の舞台になる

2022年、Europe各地の美術館で気候活動家が著名作品の近くで接着、液体を投げる行為、路上行動などを行い、大きな報道を集めました。

美術館が選ばれた理由の一つは、作品が文化的に高い象徴価値を持ち、行動が大きく報道されることです。抗議側も美術そのものの破壊を目的としないと説明する場合がありましたが、施設側は作品・観客・職員の安全を重大な問題として扱いました。

2022年10月14日《Sunflowers》へのスープ

2022年10月14日、Just Stop Oilの活動家2人がNational GalleryでVincent van Gogh《Sunflowers》の前面へトマトスープを投げ、その後壁へ手を接着しました。

Just Stop Oilは、新規石油・ガス計画への反対を訴えるための行動だと説明しました。同団体は絵画がガラスで保護されていることを認識したうえで行動したと述べています。

美術館側への影響

National Galleryの理事会議事録は、この事件後に警備責任者が安全対策強化を報告し、Europeの美術館で類似行動が続いていることを共有したと記録しています。

作品が直接損傷しなかった場合でも、警備、入場規則、職員負担、展示距離などが変更されれば、美術館全体の鑑賞環境へ影響します。

なぜ美術作品を標的にするのか

Just Stop Oilは《Sunflowers》行動後、「art is precious」としたうえで、文化的に大切な対象への強い反応を利用して、気候危機への注意を引く意図を説明しました。

これは抗議側の主張です。作品を危険へ晒す方法が正当かどうかについては強い反発があり、支持・反対を分ける争点になりました。

ICOMの2022年声明

2022年11月11日、ICOMは美術館での気候抗議について声明を発表しました。

ICOMは、活動家が表明する環境破局への懸念と、美術館が所蔵品の安全を守る責任の双方を認め、美術館が抗議の舞台として選ばれること自体はその象徴的な力を示すと述べました。同時に文化財保護への影響へ注意を促しています。

「美術館 対 気候活動家」と単純化しない

多くの美術館は気候変動対策そのものには賛同しつつ、作品への危険を伴う抗議方法には反対しました。

ICOMも活動家と美術館を単純な敵対関係に置かず、美術館自身も持続可能な未来を作る主体になり得るという立場を示しました。争点は気候危機の存在ではなく、文化財を利用した抗議手段の是非に集中する場合があります。

抗議による警備強化

気候抗議が繰り返されると、美術館は液体持ち込み、バッグ検査、展示ケース、警備員配置を見直します。

National Galleryは2024年10月、2022年7月以降に《Sunflowers》《The Hay Wain》《Rokeby Venus》などへの5件の攻撃があったとして、原則として液体持ち込みを禁止する追加措置を導入しました。

作品保護とアクセスの緊張

美術館は作品をできるだけ近くで見せたい一方、攻撃リスクが高まればガラス、柵、距離、検査を増やさざるを得ません。

抗議が作品自体を破壊しなかった場合でも、長期的には観客と作品の物理的距離を広げる可能性があります。

化石燃料企業のスポンサー問題

気候危機をめぐる制度論では、美術館がどの企業から資金を受け取るかも大きな争点になりました。

スポンサーを批判する活動家は、文化機関との関係が化石燃料企業の社会的イメージを改善する働きを持つと主張します。一方、美術館側は大型展示、無料入場、改修など公共サービスを維持するため企業資金が重要だと説明する場合があります。

National Portrait GalleryとBP

National Portrait GalleryとBPは、長年続いたBP Portrait Awardのスポンサー契約を2022年12月以降更新しないことを共同で確認しました。

これは英国文化機関とBPの長期的な関係が縮小する流れの一例になりましたが、すべての主要文化機関が同じ判断をしたわけではありません。

British Museumは2023年に新たなBP契約

British Museumは2023年末、建物と展示空間を大規模改修するMasterplanを支えるため、BPから10年間で5,000万ポンドの支援を受ける新しいパートナーシップを発表しました。

同館は、この資金が施設更新と公共アクセス維持に寄与すると説明しています。一方、気候活動団体は、美術館の環境目標と化石燃料企業からの資金受入れが両立するのかと批判しました。

スポンサー判断に単純な答えはない

企業スポンサーを受ければ自動的にその企業の全活動を支持したことになるわけではありません。一方、スポンサー企業が文化機関との関係から評判上の利益を得ることも否定できません。

美術館には財政的持続可能性と倫理的整合性を同時に説明する責任が生じます。どの企業を受け入れないかという基準も、個別に透明化する必要があります。

2023年Hayward Gallery《Dear Earth》

2023年6月から9月、Hayward Galleryは《Dear Earth: Art and Hope in a Time of Crisis》を開催し、15組の国際的な作家を紹介しました。

展覧会はOtobong Nkangaの「caring is a form of resistance」という考えに着想し、危機の悲観的表象だけでなく、care、hope、environmentとの精神的・感情的関係を主題にしました。

《Dear Earth》の多様な方法

参加作家にはAgnes Denes、Hito Steyerl、Richard Mosse、Otobong Nkanga、Andrea Bowers、Ackroyd & Harvey、Daiara Tukano、Jenny Kendlerなどが含まれました。

同じ気候危機を扱っていても、鉱業、先住民の土地、生物多様性、デジタル技術の排出、活動家の肖像、植物そのものを用いる作品など、方法は大きく異なります。

Otobong Nkanga — 採掘とケア

Nkangaの作品は、鉱物、土地、交易、身体、経済の関係を長く扱ってきました。《Dear Earth》では《In Pursuit of Bling》などを通して、産業採掘と物質への欲望が環境へ与える影響が紹介されました。

気候危機をCO2の数値だけで捉えず、地球から何を採取し、誰がその利益と被害を受けるのかという資源政治へ接続します。

Hito Steyerl《Green Screen》

《Dear Earth》ではHito Steyerlの《Green Screen》が展示され、空ボトルやクレートで構成されたLED壁と生きた植物が組み合わされました。

植物の生体電気信号を音や画像へ変換する作品は、デジタル技術が非物質的に見える一方、実際には物質、エネルギー、生物環境へ依存していることを意識させます。

Richard MosseとAmazon

《Dear Earth》ではRichard Mosseが特殊な撮像技術を用いてAmazonを記録した作品も紹介されました。

Mosseは以前から軍事・監視用撮像技術を転用してきましたが、ここでは森林破壊や環境変化を通常の風景写真とは異なる視覚情報として提示します。

Agnes Denesの再評価

《Dear Earth》は、1960年代末から環境と社会を扱ってきたAgnes Denesも含め、気候美術を若い世代だけの新潮流として扱いませんでした。

《The Living Pyramid》がHayward Galleryで再制作され、植物を用いた生きた構造として展示されました。現在の危機と、半世紀以上続く環境美術の歴史が同じ展示に置かれます。

2023年Bizot Green Protocol刷新

2023年、国際的な主要美術館館長ネットワークBizot GroupはGreen Protocolを刷新しました。CIMAMと英国National Museum Directors’ Councilは、科学的根拠にもとづく気候管理、作品移動、運営の指針として公開しています。

目的は、作品安全を維持しながら、美術館の保存環境をより低炭素にすることです。

温湿度を完全に固定しない

従来、国際貸出では狭い温湿度範囲を要求することが多く、借用館が強力な空調を24時間運転する要因になってきました。

2023年のBizot Green Protocolは、科学的なリスク評価にもとづき、多くのコレクションで従来より幅広い環境条件を安全に許容できるとし、「小さなリスクをゼロにするために大きな環境負荷を生む」考え方を見直しています。

greener practice first

刷新されたProtocolは「greener practice first mindset」を掲げます。

従来慣行を最初から当然視するのではなく、まず低環境負荷な方法を標準として検討し、作品安全など明確な理由がある場合にのみ例外を選ぶという考え方です。

2023年UK Museum COP

2023年、Tate Modernで英国の美術館・博物館関係者によるMuseum COPが開催され、主要館と関係団体が気候対策の共同方針を議論しました。

そこで刷新されたBizot Green Protocolが支持され、気候危機への対応を個別館の任意の善意ではなく、セクター全体の標準へ近づける動きが進みました。

Tateの排出削減

Tateは現在、2007/08年度を基準に2023年までに炭素排出を50%減らす目標を上回ったと公表し、2030年のnet zeroを目指しています。

2019年宣言時の「10%削減」という短期目標から、より長期的な組織全体の削減目標へ移ったことが分かります。

展覧会内容と運営を一致させる

気候危機を扱う展覧会が、作品を航空便で大量輸送し、使い捨て壁面を作り、強力な空調を必要とするなら、その矛盾は観客にも見えやすくなります。

2020年代には、何を展示するかだけでなく、どう展示を作ったかを報告することが展覧会の信頼性に関わるようになりました。

展覧会に炭素予算を設定する考え方

財務予算と同じように、展覧会制作の早い段階でcarbon budgetを設定し、作品輸送、出張、材料、建築を選ぶ方法が広がっています。

最後に排出を計算してoffsetするより、企画段階で排出そのものを減らすことが優先される方向です。

offsetだけに依存しない

Carbon offsetは、別の場所での排出削減や吸収活動へ資金を提供することで排出を埋め合わせる仕組みです。

GCCは現在、conventional carbon offsetsを「自組織の排出を相殺した」と主張する方法より、まず直接的な排出削減を行い、そのうえでStrategic Climate Fundsとして外部支援・内部投資へ資金を出す方式を推奨しています。

Climate Justice

気候危機の原因への寄与と被害は世界で均等ではありません。GCCも、歴史的に多く排出してきた裕福な北半球の国・組織が、より早く大きく削減する責任を認識しています。

美術界では、国際移動が可能な大型機関と、気候災害の直接影響を受ける小規模地域組織を同じ削減条件で扱えないという問題があります。

気候危機は美術館そのものを脅かす

気候変動は美術館が排出を減らすべき倫理的理由であるだけでなく、美術館の建物とコレクションへの直接的リスクでもあります。

ICOMは2022年の声明で、自然災害の増加や極端な気象条件によって、文化遺産と保存環境が脅かされると指摘しました。

MitigationだけでなくAdaptation

気候対策には温室効果ガス排出を減らすmitigationと、すでに起きる影響へ備えるadaptationがあります。

沿岸地域の浸水、洪水、山火事、猛暑、停電などを想定し、作品避難計画、建物改修、保険、収蔵庫の場所を見直すことも美術館の気候対応に含まれます。

2024年John Akomfrah 英国館

2024年Venice BiennaleでJohn Akomfrahは英国館《Listening All Night To The Rain》を発表しました。

La BiennaleはAkomfrahの実践を記憶、人種的不正義、移民、気候変動を調査するものと説明し、同展ではpost-colonialism、ecology、listeningを複数スクリーンと音響で結びつけました。

水を記憶の媒体として扱う

《Listening All Night To The Rain》ではwaterが8つの相互に重なる映像・音響作品をつなぐ中心的モチーフとなりました。

水は気候変動の自然現象だけでなく、移民、植民地主義、記憶を横断する媒体として扱われます。環境問題を人間史から切り離した「自然」の問題へ戻さない構成です。

生態系と歴史を分離しない

2020年代の環境美術では、気候危機を「自然が壊れている」という一般論だけで扱わず、植民地主義、採掘、貿易、移住、人種化された労働の歴史と結びつける作品が増えています。

NkangaやAkomfrahの実践では、地球環境と人間社会を別のテーマとして処理せず、物質と歴史が同じネットワークの中にあります。

2025年GCCの5年検証

2025年、Gallery Climate Coalitionは設立5年のStocktakeを公表しました。

公開された概要では、2019年から排出測定を行っていたGCC会員の79%が25%を超える削減を達成しており、2030年までに50%削減という目標が実現可能であることを示す初期的な実績として報告されています。

GCCデータを美術界全体へ一般化しない

GCCの会員は、もともと気候対策へ参加する意思を持つ組織・個人です。そのため会員の削減実績を、そのまま世界の美術界全体の平均とみなすことはできません。

一方、具体的に排出を測り続けた組織で削減が実現していることは、「文化分野では排出削減は不可能」という主張への実務的な反証になります。

美術界は成長しながら排出を減らせるか

ギャラリーが海外支店を増やし、フェアが増え、美術館が大型化すれば、効率改善だけでは総排出量が増える可能性があります。

GCCは、組織の成長計画そのものと排出削減を同時に検討し、基準年からの絶対排出量を減らす必要を強調しています。

国際性と気候負荷

現代美術の評価・市場・研究は、国境を越える移動に強く依存してきました。ビエンナーレ、フェア、巡回展、スタジオ訪問、レジデンスが国際的なネットワークを作ります。

気候対策は国際交流を全面的に止めることではなく、何を物理移動させる必要があるのか、滞在期間を長くできないか、複数の用事を一回の移動にまとめられないかを再設計する問題です。

現地制作という方法

大型インスタレーションを完成状態で航空輸送する代わりに、設計データや指示を送り、現地で調達・制作する方法があります。

ただし作家が指定する素材、技術、品質を現地で再現できるとは限らず、保存・真正性の問題も生じます。持続可能性は単純な「輸送しないほど良い」という規則ではなく、作品ごとの判断を必要とします。

デジタル化も無炭素ではない

オンライン会議、デジタル展示、クラウド保存は航空移動の代替になり得ますが、サーバー、端末、通信網も電力と物質資源を使います。

GCCのCarbon Calculatorもdigital emissionsを追加項目として扱っています。オンラインだから自動的に環境負荷ゼロという理解は避ける必要があります。

制作材料

作家にとっては、樹脂、金属、木材、塗料、映像機器、電子部品など制作材料の調達と廃棄も問題になります。

一方、耐久性や保存性を無視して短寿命な材料へ変えれば、長期的に再制作・交換が増える可能性もあります。環境負荷、作品意図、保存性を一緒に考える必要があります。

一時的作品は必ず低環境負荷か

一時的なインスタレーションや自然素材の作品は、恒久的なブロンズ彫刻より環境的に見える場合があります。

しかし会期ごとに大量の建材を廃棄したり、遠距離輸送を繰り返せば負荷は大きくなります。外見だけで「サステナブルな作品」と判断することはできません。

「緑っぽい見た目」と環境性を分ける

植物、土、再生素材を使う作品は視覚的に環境意識を連想させます。

しかし作品が何を問題にし、材料がどこから来て、会期後どう扱われるかを見なければ、見た目の自然らしさと実際の環境負荷を混同します。

作品とアクティビズム

Andrea BowersやAckroyd & Harveyのように、実際の環境活動家や運動と密接に協働する作家もいます。

一方、Just Stop Oilの美術館行動は、それ自体を美術作品として提示しているわけではありません。美術とアクティビズムが接近する場面でも、作家の制作と政治運動の行動を同じカテゴリーにしないことが重要です。

「care」が気候美術の語彙になる

2023年《Dear Earth》が示すように、2020年代の環境美術では「危機」「破局」だけでなく、care、repair、maintenanceといった語彙が重要になります。

世界を巨大な技術によって救う発想だけでなく、水、土壌、種、共同体、既存インフラを継続的に手入れする行為へ価値を置く方向です。

希望を扱うこと

気候危機を扱う展示には、観客へ恐怖や罪悪感だけを与えると行動につながらないという問題意識があります。

《Dear Earth》や《Our Time on Earth》は、破局の可視化だけでなく、別の関係を想像する力を強調しました。ただし「希望」を示すことが危機の深刻さを弱めないよう、具体的な構造との接続が必要です。

科学と芸術の協働

気候変動は気温、CO2、海面、氷床、生物多様性など科学データを基礎に理解されます。そのためアーティストが科学者と協働する例も多くあります。

しかし芸術の役割は科学データを分かりやすく図解することだけではありません。身体感覚、倫理、記憶、喪失、責任など、科学的測定だけでは扱いにくい側面を経験として提示できます。

データを体験へ変える

《Ice Watch》の溶ける氷、泥炭地の多感覚展示、植物信号を使う作品などは、データを説明パネルにするのとは別の方法で環境変化を身体化します。

一方で、強い体験が科学的事実を正確に伝えるとは限りません。作品の感覚的効果と、気候科学上の主張は区別して読む必要があります。

気候展と企業資金の整合性

気候危機を扱う展覧会を開催しながら、同じ機関が化石燃料企業から資金を受け取る場合、その整合性が問われることがあります。

この批判は、作品内容と経営を切り離さず、美術館全体の資金構造まで文化的メッセージの一部として見る考え方です。一方、スポンサー資金によって無料アクセスや大規模改修が支えられるという制度側の現実もあります。

制度は何を公開すべきか

気候非常事態を宣言した機関には、目標だけでなく実績を公開することが求められます。

基準年、Scope 1・2・3、作品輸送、出張、建物エネルギーをどこまで含むかによって数字は変わります。削減率だけでなく算定範囲を示すことが信頼性につながります。

Scope 3の難しさ

美術館やギャラリーが直接使用するガス・電力だけでなく、作品輸送、職員出張、購入材料、来館者移動など間接排出を含めると、排出量の把握は難しくなります。

特に国際的な美術機関では、外部輸送会社や来場者の移動が大きな割合を持つ可能性があり、組織単独では完全に制御できません。

来館者移動をどう考えるか

世界的美術館には海外から航空機で訪れる観客もいます。これを美術館の排出としてどこまで算入するかは議論があります。

来館者移動を機関が直接管理することは困難ですが、公共交通案内、地域観客との関係、長期滞在型観光など、文化政策と交通政策が交差する問題になります。

美術館同士で基準を共有する

気候対策は一館だけが厳しい条件を採用すると、国際貸出を受けにくくなる場合があります。

Bizot Green Protocolの重要性は、主要館が共通の保存・輸送原則へ合意することで、「相手館が要求するから高負荷な条件を維持する」という相互依存を変えられる点にあります。

Protocolは法律ではない

Bizot Green Protocolは国際条約や法律ではなく、専門家と美術館の合意にもとづくガイドラインです。

そのためすべての作品、すべての館が同じ数値を強制されるわけではありません。特に脆弱な作品には個別の保存条件が必要です。

2024年、抗議とアクセスの再調整

2024年National Galleryが液体持ち込みを制限したことは、気候抗議が美術館の日常運営へ長期的な影響を与えた例です。

活動家は気候危機への注目を求め、美術館は公共アクセスと文化財保護を守ろうとします。同じ気候危機への認識があっても、行動手段をめぐって対立は続きました。

2025年までに何が定着したのか

2019年には気候非常事態を「宣言する」こと自体が大きなニュースでした。2025年までには、主要美術館やギャラリーにとって、carbon reporting、輸送方法、エネルギー、廃棄物、気候適応を具体的に管理することが制度運営の一部になりつつあります。

一方、国際展やアートフェアの規模拡大、スポンサー、航空移動など、美術界の既存モデルと削減目標の間には解決していない緊張が残っています。

2019–2025年に何が変わったのか

2019年、Culture Declares Emergencyが始まり、Tateは気候非常事態を宣言しました。同年ICOM Kyotoは、美術館自身がcarbon footprintを認識・削減し、持続可能な未来づくりへ参加する決議を採択します。Triennale Milano《Broken Nature》やOlafur Eliasson《In Real Life》は、環境危機を展示テーマとして扱いながら、文化機関自身の運営を問う機運と重なりました。

2020年にGallery Climate Coalitionが設立されると、視覚芸術分野では2030年までの50%排出削減という数値目標、carbon calculator、輸送・出張・建物エネルギーの計測が実務化します。2022年にはSerpentine《Back to Earth》、Barbican《Our Time on Earth》、Venice Biennaleの環境的・posthuman的議論が広がる一方、Just Stop Oilの美術館行動によって、気候危機、文化財保護、市民的不服従が衝突する場として美術館が注目されました。

2023年Hayward Gallery《Dear Earth》は、Agnes DenesからHito Steyerl、Otobong Nkanga、Richard Mosse、Daiara Tukanoまでを通じ、気候美術を一つのスタイルではなく、採掘、先住民知、生物多様性、デジタル技術、careの問題として提示しました。同年、Bizot Green Protocolは温湿度管理、作品輸送、virtual courierを含む実務を刷新し、気候危機への対応は展覧会内容から保存・物流の標準へ入り込みます。

2024年John Akomfrah《Listening All Night To The Rain》はpost-colonialism、ecology、water、migrationを重ね、環境問題を人間の歴史と分離しない方向を示しました。National Galleryは一連の抗議を受けて液体持ち込みを制限し、文化財保護と公共アクセスのバランスを再調整しました。

2025年GCCの5年検証では、2019年から継続的に排出を測る会員の多くで実際の削減が報告されました。2019–2025年の大きな変化は、「気候について作品で語る」ことから、「美術を作り、運び、保存し、資金調達し、公開する制度そのものが気候危機の一部である」と認識されるようになったことです。

残された課題

文化機関が排出削減を進めても、気候危機を美術界だけで解決することはできません。美術分野の排出は、エネルギー、航空、物流、建築、都市政策などより大きな産業システムへ依存しています。

それでも美術館やギャラリーは、象徴的影響力だけでなく、自ら大規模な建物と国際物流を運営する組織として具体的な責任を持ちます。作品のメッセージと制度の実践をどこまで一致させられるかが、2025年以後も継続する課題です。

次の時代へ — 2020年代半ばの美術と複合危機

2020年代半ばの現代美術では、気候危機、AI、戦争、移住、植民地主義、経済格差などが別々のテーマとしてではなく、複合した制度環境として現れています。単一の「次の運動」が現代美術全体を代表する状況ではありません。

次の記事では、2022–2025|複合危機の時代の現代美術 — 戦争、移住、検閲、文化制度として、RussiaによるUkraine侵攻以後の文化財保護と美術制度、Israel/Gazaをめぐる展覧会・表現の論争、documenta fifteen以後の制度的対立などを、政治的立場の優劣を決めず、美術制度がどのように対応したかという観点から整理します。

参考資料・出典

本ページは、美術館・文化機関、国際的な博物館専門団体、作家・展覧会公式資料、文化分野の気候対策組織、抗議団体の一次資料等を参照してART LIBRARYが独自に構成・執筆しています。環境美術、文化機関の脱炭素化、企業スポンサー、気候活動家による抗議はそれぞれ異なる制度・実践であるため、一つの「Eco Art運動」として単純化していません。抗議活動については、活動家側の目的と美術館側の文化財保護責任を区別して記述し、行動の正当性について本ページ独自の評価を行っていません。また、GCC等の排出削減実績は参加組織のデータであり、世界の美術分野全体の平均値として扱っていません。原文の全文翻訳ではありません。

資料確認日:2026年10月1日 / ART LIBRARY