Art Library

Josef Albers

ジョセフ・アルバース

アメリカ(ドイツ生まれ) / 1888–1976 / バウハウス・幾何学的抽象・色彩研究・美術教育

正方形の中に、別の正方形がある。同じ形を繰り返すジョセフ・アルバースの絵は、一見すると単純です。しかし、しばらく色を見比べると、ある部分が前に出るように感じられたり、白の明るさが周囲によって変わって見えたりします。形が少ないからこそ、見ることの変化が目立ちます。アルバースが探究したのは、美しい配色だけでなく、色が関係の中で何を起こすかという問題でした。

その仕事は油彩だけに限られません。ガラス、家具、書体、写真、版画、そして美術教育が、長い生涯の中で結びついています。バウハウスで素材を試し、アメリカで学生たちと形と色を研究したアルバースは、完成した作品と、見方を育てる実験の両方を重視しました。本記事では主要作品12点を入口に、正方形の連作へ至る経歴と、同じ色が違って見えることの意味を考えます。

生涯と制作の変遷

手で材料を扱うことと、教師としての出発

アルバースは1888年、ドイツのボトロップに生まれました。父の仕事を通じて木工や塗装などの技術に触れた経験は、素材を具体的に扱う姿勢の背景になります。若い頃には学校の教師として働きながら、美術を学びました。のちの色彩教育を、画家として成功した後に付け加えた仕事と考えるより、学ぶことと教えることが早くから経歴にあったと見るほうが適切です。

初期には人物を描き、版画にも取り組みました。自画像を見れば、後年の幾何学的な作品とは異なる表現があったことが分かります。ただ、その違いを未熟な時期として片づける必要はありません。輪郭、明暗、画面のまとまりをどうつくるかという問題は、題材を変えて続きます。具象から抽象へという経歴の説明と、一点の作品にある工夫を読むことを両立させたいものです。

バウハウスで、学生から教える側へ

1920年、アルバースはヴァイマルのバウハウスに入学しました。ガラスをはじめ、素材と構成への関心を深め、学生から教える立場へ進みます。1923年にはモホリ=ナジと予備課程の指導を担い、1928年以降はその責任者となりました。画家の個性を完成させることだけでなく、素材を調べ、構造を発見する学びが重視されます。

1925年には、同じバウハウスで学んだアニ・アルバースと結婚しました。アニは織物などを中心に独自の制作と教育を展開した作家です。二人の生活と仕事は深く関わりましたが、ジョセフの補助者としてアニを説明することは適切ではありません。それぞれが異なる素材から、形、構造、制作の可能性を探究しました。

アメリカでの教育と、正方形の連作

1933年、ナチスによる圧力のもとでバウハウスが閉校すると、夫妻はアメリカへ移りました。ジョセフはブラック・マウンテン・カレッジで教え、1950年からはイェール大学のデザイン部門を率います。同年に始まる《正方形へのオマージュ》は、以後の長い制作を代表する連作になりました。

1963年には《Interaction of Color》が刊行され、色を見る実験を広く共有する基盤になります。1971年にはメトロポリタン美術館で回顧展が開催され、1976年に亡くなりました。作品と教育の両方に関わった経歴は、色彩の専門家という肩書きだけでなく、見る力を育てる条件をつくった作家として理解する手がかりです。

バウハウス――素材から形を考える

材料に、何ができるかを確かめる

アルバースの素材教育では、紙、木、金属などを簡単な道具で試すことが重要でした。最初から完成形を決め、その形へ材料を従わせるだけではありません。折る、曲げる、切る、組むという操作によって、材料の強さや弱さ、重さ、表面、構造の可能性を見つけます。少ない材料で大きな働きを得ることも課題になります。

紙を例に考えるなら、平らな一枚は弱くても、折ることで立つ構造になる場合があります。見た目の形だけでなく、材料がどう支え合うかを確かめると、制作は観察と発見の過程になります。ここでの自由は、条件が何もないことではありません。具体的な条件をよく知ることが、新しい使い方を生む土台になります。

制約は、考える範囲を狭めるだけではない

使用できる道具や材料が限られると、工夫の違いが見えやすくなります。最初から多くの選択肢がある場合、結果の違いが素材の違いなのか、操作の違いなのかを判断しにくいことがあります。条件を限定すると、一つの変化が全体に及ぼす作用を具体的に比較できます。

この姿勢は、後年の正方形の連作ともつながるものとして考えられます。ただし、素材実験がそのまま正方形の油彩になったと単純化する必要はありません。紙を折ることと色面を描くことには、違う条件があります。共通するのは、限られた手段の中で、どの関係がどの結果を生むかを丁寧に確かめる姿勢です。

ガラス、家具、文字――使う形と見る形

器は、素材と身体の関係を持つ

《果物鉢》や《受け皿・撹拌棒付きティーグラス》では、金属、ガラス、木などの異なる材料が関わります。透明さや光沢は見た目を変えますが、器には持つ、入れる、混ぜる、置くという用途もあります。形の美しさだけでなく、身体がどのように扱うかを考えると、作品の具体的な条件が分かります。

素材が複数あることは、豪華さを増やすためだけではありません。熱、重さ、手触り、強度など、別の条件を担当する場合があります。外から見える輪郭を確認した後、取っ手や支え、接合部にも目を向けてください。装飾を減らすことと、制作の判断を減らすことは同じではありません。

家具では、空きと支えも形になる

テーブルや椅子は、上から見た天板や座面だけで完結しません。脚と支えの間にある空き、透明な部分、横から見た重なりが全体をつくります。アルバースの家具を見ると、立体の形は物質のある場所だけでなく、物質がない場所によっても決まることが分かります。

使う身体の重さを受け止める構造と、軽快に見える輪郭は別の条件です。両方を成立させるには、材料の選択と組み方に判断が必要です。絵画と家具を同じものとして説明することはできませんが、部分と全体の関係を探る姿勢には共通点があります。平面の画家として知られるアルバースの視野が、生活の物へ広がっていたことも見えてきます。

文字は、意味と組み立ての規則を持つ

《バウハウスのステンシル文字体系》では、限られた形を組み合わせて文字をつくります。読む人にとって文字は意味を伝えるものですが、つくる側から見れば、共通する部品とその配置の体系でもあります。一文字ずつ読むことと、複数の文字に同じ形を探すことでは、異なる観察が生まれます。

書体の仕事を、絵画の幾何学を文字へ飾りとして使う行為とだけ考えないことが大切です。読みやすさ、部品の数、組み合わせの規則が、表現の条件になります。アルバースの制作では、意味を伝える物と、純粋に見る物の境界にも、構成を考える余地がありました。

写真コラージュ――一枚の像では終わらない

同じ人物を、複数の時点から見る

アルバースの写真の仕事は、正方形の連作ほど広く知られていません。バウハウス時代の写真コラージュでは、複数の写真がボード上に組み合わされています。《マルリ・ハイマン、一時間のあいだに》では、同じ人物の異なる姿が一つの全体にあります。一枚の写真が人物を代表する見方から、複数の瞬間を比較する見方へ移ります。

そのとき、写真の内容だけでなく、置かれた間隔と順番を見てみましょう。ある姿から別の姿へ目を移す間に、時間の幅が生まれます。切り取られた一瞬と、並べることによって生まれる時間は同じではありません。写真が機械的に記録した像も、配置によって別の作品になります。

反復は、同じことの増加だけではない

《パウル・クレー、デッサウ》では三枚が並びます。繰り返し見る顔は同じ人物ですが、身体の見え方や写真の条件が異なります。同じものを繰り返すことで、違いがかえって見えやすくなるのです。この問題は、後年の連作絵画を考えるときにも役立ちます。

ただし、写真に正方形の連作の予告だけを探すと、その作品の具体的な親密さや記録としての性質が失われます。写真には撮影された人物と時期があり、絵画の色面とは異なる現実との関係があります。異なる媒体に共通する反復への関心と、媒体ごとの違いを両方保ちながら見ることが重要です。

ブラック・マウンテン・カレッジとイェール大学

作品をつくる前に、見る力を育てる

ブラック・マウンテン・カレッジでの教育は、アルバースの影響を考える大切な場所です。ルース・アサワ、ロバート・ラウシェンバーグ、スーザン・ワイルら、異なる方向へ進んだ作家たちが学びました。教えた画家と同じ画風になることが、教育の成果を測る唯一の基準ではありません。観察と実験の習慣が、その後に別の制作へ生かされる場合があります。

素材を扱うとき、以前から知っている名前や用途だけに頼ると、新しい働きを見落とします。色を見る場合にも、赤や青という名前を覚えることと、それが周囲の中でどう見えるかを観察することは別です。アルバースの教育では、この違いを実際に試すことが重要になります。説明を聞くことと、自分の目で変化を経験することを結ぶ学びです。

教師の作風を、正解にしない

指導者が強い作品を持つと、学生がその見た目を真似することもあります。しかし、アルバースの影響を受けた作家の仕事は、正方形の色面だけに集約されません。立体、織物的な構造、絵画、写真、複数の素材を使う制作などへ広がります。共通するのは、結果の外見より、素材と見る条件を検討する姿勢だと考えられます。

ここから、教育と制作を分けすぎない見方も生まれます。課題をつくることは、他人に知識を渡すだけでなく、どの条件で何が発見できるかを考える仕事です。一方、教師の課題をそのまま作品と同じものと見なす必要はありません。実験のための配置と、一点の作品として選び取られた構成には、それぞれの目的があります。

イェールで、色彩の研究を体系化する

1950年からのイェール大学での仕事では、色の関係を調べる教育がさらに展開します。色相環や一般的な配色の規則を覚えるだけでなく、実際に色を置いて、見え方を比較することが中心になります。その成果を広く伝える仕事として、1963年の《Interaction of Color》が重要です。

この本を、理想の配色を一覧にした資料と考えると、方法の核心を見落とします。色が安定した性質を持っているように思えても、周囲、面積、配置によって印象が変わることを、段階的に確かめます。規則を先に適用するより、観察した結果から次の問いをつくることが、その学びを続ける条件になります。

《正方形へのオマージュ》――形を限定し、色を開く

なぜ、正方形を繰り返すのか

《正方形へのオマージュ》では、入れ子状の正方形という形式が繰り返されます。形が毎回大きく変わるなら、見え方の違いが形によるものか色によるものかを判断しにくくなります。一定の構成を保つことによって、色の組み合わせと面積の違いを観察しやすくできます。限定された形式は、研究を続ける土台です。

正方形は、描かれた風景や人物の意味を先に読ませる形ではありません。そのため、鑑賞者は色の関係へ注意を向けやすくなります。ただし、主題がないから感情もないと決める必要はありません。明るさ、温かさ、奥行き、落ち着きや緊張などが感じられる場合があります。それがどの配置から生まれるかを観察できます。

中心は、どのように見えるか

入れ子の形では、内側の正方形に目が向きます。しかし、中心の色の見え方は、その周囲の色によって支えられています。一つの部分だけを切り取ると、全体の中で得た印象が変わることがあります。中心を独立した主役と考えるより、周辺との関係を持つ部分として見ることが重要です。

さらに、内側の形が前へ出るように見えるか、奥へ引くように見えるかを確認してみましょう。実際の厚みを描かなくても、色の差から前後の感触が生まれる場合があります。目の前の平面と、感じられる空間は一致しません。アルバースの絵は、その違いを単純な形で経験する場所になります。

白や灰色も、関係の中で変わる

《白い記念碑》や《二つの黄色の間の二つの白》を見ると、白は何もない余白とは違う働きを持ちます。明るい部分の色味や強さは、隣の色によって異なって感じられます。鮮やかな色だけに作用があるわけではなく、白や灰色にも比較する余地があります。

題名にある色の数を確認した後、一つずつ見比べてみてください。写真で見る場合には、表示の条件によって差が伝わりにくいこともあります。それでも、面積と配置を観察することはできます。色の名称だけで鑑賞を終えず、色が画面でどのような役割を持っているかを見ると、連作の違いが分かります。

主要作品

初期の版画、バウハウスのデザイン、写真の組み合わせ、油彩と版画を含む12点を紹介します。素材、用途、反復する形、色の配置の違いを見比べてみましょう。

自画像(右向きの横顔)

Self Portrait (right profile) / 1916年頃 / リノカット / 画面 18.1 × 9.8 cm/紙 26 × 18.8 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

初期の人物表現を知る版画です。後年の正方形の絵を知ってから見ると、顔を具体的な形として描いていた時期が別の入口になります。明暗の境目、輪郭、余白を比べてください。版を切り取る技法では、線と面の選択が人物の見え方を左右します。抽象へ進む画家の経歴を一方向の必然と考えず、この作品にある形の工夫そのものを観察できます。

所蔵館の作品情報 ↗

果物鉢

Fruit Bowl / 1924年 / 銀めっきした金属、ガラス、木 / 9.2 × 42.5 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

異なる素材を使いながら、器としてのまとまりをつくるデザインです。透明な部分と不透明な部分、金属の光と木の質感を見比べてみましょう。使う物としての条件と、形の秩序が同時に関わっています。絵画の幾何学を日用品に移したとだけ説明せず、素材の組み合わせと機能から出発するバウハウスの仕事として見ると、その具体性が分かります。

所蔵館の作品情報 ↗

受け皿・撹拌棒付きティーグラス

Tea Glass with Saucer and Stirrer / 1925年 / 耐熱ガラス、クロムめっきした鋼、黒檀、磁器 / カップ 5.1 × 14 × 8.9 cm/受け皿 直径10.5 cm/撹拌棒 10.8 × 1.1 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

飲み物を入れる器に、持つことや混ぜることのための部分が組み合わされています。透明な器と、異なる素材の取っ手や付属品を比べると、形が機能と素材に関わることが分かります。単に美しい輪郭をつくる仕事ではなく、手で扱う条件が含まれます。同館にある別の同題の所蔵品と区別し、本記事ではリンク先の作品記録にある素材と寸法を用いています。

所蔵館の作品情報 ↗

バウハウスのステンシル文字体系

Bauhaus Stencil Lettering System (Kombinations-Schrift) / 1926〜1928年 / 乳白ガラス、彩色した木 / 61.3 × 60.6 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

少数の形を組み合わせて文字をつくる体系です。一文字ずつ読むことと、共通する部品を探すことでは、異なる見え方になります。文字の意味を伝える形に、組み立ての規則が働いていることを観察できます。ここで紹介する所蔵品は乳白ガラスと彩色した木で構成された物体であり、現在のデジタルフォントのデータを指すものではありません。

所蔵館の作品情報 ↗

コーヒーテーブル

Coffee table / 1928年 / トネリコ材、ガラス / 54.9 × 68.9 × 68.3 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

木とガラスを使ったテーブルです。天板だけでなく、下の構造がどのように物を支えるかを見てください。ガラスによる透明さは、脚や支えの関係を見る条件にもなります。正面の輪郭だけでなく、見る角度を変えたときの重なりや空きも重要です。アルバースの制作には、平面の構成と、実際の用途を持つ立体の構成の両方がありました。

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肘掛け椅子(モデルti 244)

Armchair (model ti 244) / 1929年 / ブナの積層材、鋼管、カンヴァスの張り地 / 72.4 × 58.7 × 72.4 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

座る身体と、それを支える材料の関係を扱う家具です。鋼管の線、木の部分、張り地が、それぞれ異なる働きを持ちます。輪郭の簡潔さを見た後に、重さを受け止める構造を考えてみましょう。見た目の軽快さと、使用に必要な強さが同じ条件ではないことが分かります。絵画以外の仕事を見ることで、素材を試す姿勢と構成への関心がつながります。

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マルリ・ハイマン、一時間のあいだに

Marli Heimann, All During an Hour / 1931年3月または4月/1932年 / ボードに貼ったゼラチン・シルバー・プリント12枚 / 全体 29.7 × 41.8 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

一人の人物の複数の写真が、ひとまとまりに配置されています。単独の肖像を探す目から、姿勢や表情の違いを比較する目へ移ると、時間の幅が生まれます。同じ人物であっても、一枚の写真だけで存在の全体を示せるとは限りません。年記には撮影と後の制作の区別が含まれるため、一年へ単純化していません。写真の内容と、その配置の両方を観察する作品です。

所蔵館の作品情報 ↗

パウル・クレー、デッサウ

Paul Klee, Dessau / 1929年11月/1932年 / ボードに貼ったゼラチン・シルバー・プリント3枚 / 全体 17.1 × 41.8 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

クレーを写した三枚が並べられています。顔を確認した後、写真同士の間隔と、身体の見え方の違いを比べてください。横長の全体は、一枚の写真とは別の見る順序を生みます。画家を記録した資料としての役割に加え、反復と差異による構成も持つ作品です。撮影時期と組み合わせの制作時期を示す年記を残し、単独の一回の撮影の情報へまとめていません。

所蔵館の作品情報 ↗

正方形へのオマージュ:白い記念碑

Homage to the Square: White Monument / 1951年 / 油彩、ボード / 81.3 × 81.3 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

入れ子状の正方形という限定された形式で、色と面積の関係を探る作品です。一つの色をしばらく見た後、隣の色へ視線を移すと、明るさや奥行きの印象が変わる場合があります。白も何もない場所ではなく、周囲との関係を持つ色として働きます。連作の初期の一枚として、形を固定することが色の違いを観察しやすくする仕組みを考えられます。

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構造的星座――フェルディナント・ホドラーに捧ぐ

Structural Constellation “To Ferdinand Hodler” / 1954年 / 木の上の酢酸ビニル樹脂に刻線 / 43.3 × 57.2 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

線による構成から立体を読み取ろうとすると、見る方向が切り替わるような感覚があります。実在する一つの物を正確に再現した設計図と考えず、線のつながりが目に何を起こすかを観察してください。色面を中心とする正方形の絵とは違い、輪郭の関係が知覚を揺らします。ここでは版画ではなく、樹脂へ線を刻んだ所蔵作品を紹介しています。

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正方形へのオマージュ:二つの黄色の間の二つの白

Homage to the Square: Two Whites Between Two Yellows / 1958年 / 油彩、ボード / 101.5 × 101.5 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

題名が示す白と黄色を見比べると、近い色の差と、その配置が鑑賞の中心になります。何色を使ったかだけでなく、それぞれがどの色に囲まれ、どのくらいの面積を占めるかを確認してください。平たい色の配置が、前後や光の感触を生む場合もあります。周囲を変えれば同じ色の印象も変わるというアルバースの問題を、実際に見る経験へ近づける作品です。

所蔵館の作品情報 ↗

ヴァリアントMM

Variant MM / 1968年 / スクリーンプリント / 画面 48.3 × 55.9 cm/紙 58.2 × 65.9 cm

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

正方形の連作とは異なる、矩形の配置で色の関係を扱う版画です。中央と周辺、縦と横の面の関係を見てください。形の規則が変わると、目が色を比較する順序も変わります。油彩の筆触を離れた印刷の面から、同じ画家が別の素材で色を研究したことを考えられます。題名の似た別の作品を混同せず、1968年の所蔵記録に基づいています。

所蔵館の作品情報 ↗

《Interaction of Color》――色は、周囲とともに見える

同じ色を、違って見せる

同じ色の小さな紙片を、異なる背景の上に置くことを考えてみましょう。物理的には同じ紙でも、片方が明るく、もう片方が暗く感じられる場合があります。背景が変わると、目が比較している条件が変わるためです。アルバースの教育は、こうした経験を、言葉だけで知るのでなく実際に確かめる方向へ導きます。

その実験では、最初の印象を正解や間違いとして処理するより、何を変えると何が変わるかを観察することが大切です。背景の明るさを変えたのか、色味を変えたのか、紙片の面積を変えたのか。条件を一つずつ確認すると、色の作用を漠然とした好みだけで説明せず、具体的な関係として考えられます。

異なる色を、近く見せる

反対に、異なる二つの色が、背景との関係によって近く見える場合もあります。ここでも、色が実際に同じ物質へ変わるわけではありません。変わるのは、見る条件の中で得られる印象です。物理的な同一性と、視覚的な類似を区別することが、アルバースを理解するうえで重要になります。

この問題は、印刷、絵画、デザインなどにも関わります。同じ色の指定を使えば、どの場所でも同じように感じられるとは限りません。周囲の色、面積、配置が、色の伝わり方に作用します。ただし、作品を実用的な配色の資料だけへ還元せず、その変化を独立した視覚の経験として受け止めることもできます。

透明に見えることと、透明な材料であること

色の配置によって、ある面が別の面を透かしているように見える場合があります。それは、必ず透明な材料を使用した結果とは限りません。重なりの部分にどの色を置くか、周辺をどう区切るかによって、平面に透明感をつくることができます。見える性質と、物質の性質は区別して考えます。

アルバースには実際のガラスを使った仕事もあるため、この違いはとくに有益です。ガラスが透けることと、油彩や色紙が透けるように見えることには、異なる条件があります。素材を知ることと知覚を観察することの両方が、作品を具体的に理解する助けになります。

構造的星座――線だけでも、見る判断は揺らぐ

立体を読み取ろうとする目

《構造的星座》の作品群では、線のつながりから立体を読もうとする視線が、安定した答えを得にくい場合があります。どの辺が手前なのか、どの面が奥なのかを考えると、見え方が切り替わります。色面の関係とは別の方法で、目が自動的に行っている空間の判断が前面に出ます。

これを、あり得ない立体の設計図としてだけ眺める必要はありません。実際の物としてつくれるかという判断と、平面上でどのように見えるかという判断は別です。線が少ないからこそ、一本の方向と、別の線へのつながりが大きな作用を持ちます。何を描いたかだけでなく、目に何が起きるかを観察する作品です。

色彩の画家という紹介を広げる

アルバースは色彩で有名ですが、色が少ない作品にも、関係を研究する姿勢があります。線と線、平面と立体、手前と奥が、固定された形の名前を越えて問題になります。正方形の油彩と構造的星座を見比べると、色そのものだけが彼の制作の対象ではなかったことが分かります。

それぞれの媒体も確認してください。本記事で紹介する《フェルディナント・ホドラーに捧ぐ》は、樹脂に線を刻んだ作品です。同じ主題の版画と混同せず、材料と表面の条件を保つ必要があります。線の図像が似ていても、刻まれた表面と印刷された紙は同じ経験を生みません。

メキシコへの旅と、抽象の関係

抽象は、外の世界との関係を失うことではない

アルバース夫妻はメキシコへ繰り返し旅し、建築や考古学的な遺跡などに関心を持ちました。ジョセフは写真や写真コラージュを制作し、その経験は抽象作品を考える別の入口になります。幾何学的な作品を、外の世界を一切見ずに生まれた純粋な形としてだけ捉えることはできません。

建築の段差や矩形、影、開口部を観察すると、現実の場所にも形の反復と変化があります。ただし、一つの絵を一つの遺跡の正確な写しとして説明すると、制作の変換が抜け落ちます。経験した形が、絵画や写真の中でどのように選ばれ、別の条件へ移されたかを見ることが大切です。

場所の写真と、色の絵を比べる

遺跡の写真を見た後に《ヴァリアント》や正方形の作品を見ると、入れ子、段差、開いた面などの関係に気づく場合があります。そこから、抽象を現実の記録と対立するものへ分けるだけでは説明できないことが分かります。現実の観察と、その観察を別の構成へ変える制作が関わっています。

一方、メキシコの文化を抽象の便利な素材としてだけ扱わないことも重要です。旅した場所には固有の歴史と意味があります。作品との形の類似を確かめることと、文化全体を一人の画家の研究へ従属させることは別です。写真と絵画を比較する際にも、その違いを保って見たいものです。

油彩と版画――同じ研究にも、異なる条件がある

色の面と、制作の表面

油彩の作品は、画面上の画像では均一な色面に見えることがあります。しかし、実物には支持体、絵具、塗りの表面があり、単なる色の指定とは違います。アルバースの作品を、どの媒体でも同じように再現できる配色図として扱うと、その物質的な条件を見落とします。

版画では、紙、印刷方法、版、刷りの条件が色の見え方に関わります。同じ作家が色を研究していても、油彩とスクリーンプリントは別の作品です。複数の部数をつくることや、画面と紙の余白の関係も、鑑賞の条件になります。正方形の構成だけでなく、その外側の紙も見てみましょう。

正方形以外の形式を見る

《ヴァリアント》の作品群を見ると、アルバースの色彩研究が正方形の入れ子だけで完結していないことが分かります。矩形が別の組み合わせで置かれると、視線の方向と面積の比較が変わります。中心へ集まる見方から、横へ並ぶ部分を比較する見方へ移ることもあります。

同じ色を使ったと仮定しても、形と配置が変われば、その色の働きは変わります。色と形を完全に独立したものとして分けるより、色を観察するための条件を形がつくると考えると、連作の違いが理解しやすくなります。形式を変えることにも、研究を進める意味があります。

ほかの抽象絵画と比べると、何が見えるか

モンドリアンと、色と形の秩序

モンドリアンとアルバースは、幾何学的な形と色の関係から比較できます。ただし、直線や正方形を使う画家がすべて同じ問題を扱っているわけではありません。画面の区切り、中心と周辺の関係、色の選択、反復の方法を具体的に見比べると、それぞれの構成の違いが分かります。

アルバースの正方形では、入れ子状の色が互いの見え方へ作用します。一つの色を独立した単位として見るより、囲む色との関係が重要です。幾何学的という共通の名称を入口にしながら、その先では、どの条件を固定し、どの条件を変えているかを見ることが有効です。

ロスコと、色面の経験

ロスコの作品も、大きな色の領域を見る経験から比較できます。しかし、形の境目、面の大きさ、画面の尺度、塗りの表面は異なります。色面があるという共通点だけで、一つの美術の類型へまとめることはできません。実物の大きさと距離を確認すると、見る身体への働きも違うことが分かります。

アルバースでは、比較できる形式を繰り返すことが色の変化を前面に出します。ロスコを同じ方法の画家として説明するより、境界と色の広がりが、どのような経験をつくるかを別々に見たうえで比較しましょう。似た題材の少なさが、同じ目的を意味するとは限りません。

オプ・アートとの関係

アルバースの研究は、視覚的な効果を重視する後の美術と関係づけられます。けれども、目を驚かせる錯覚だけが制作の目的だったとまとめると、素材教育や色の比較の仕事が狭くなります。強い効果がすぐに出ない場合でも、小さな変化を見続けることができます。

作品の価値を、どれだけ動いて見えるかという一つの尺度で判断しないことが大切です。色の微妙な差、面積の関係、中心と周辺の印象などにも観察の余地があります。知覚の研究を、派手な視覚効果と同義にしないことで、アルバースの広い仕事が見えてきます。

作品を見るための手がかり

色を三つ選び、順番に見比べる

最初に内側の色を見て、次にその周囲、最後に最も外側を見るという順番を試してみましょう。その後で全体へ戻ると、最初に見た中心の印象が同じかどうかを確かめられます。色が変化するように感じられても、すぐに錯覚の名称を付ける必要はありません。自分の目が何を比較したかを観察します。

強い変化が見えない場合も、失敗ではありません。作品、照明、距離、表示の条件によって経験は変わります。形の配置や面積を見比べることから始められます。見えるはずの効果を無理に言葉で作らず、実際に確かめられたことを保っておくほうが、有益な鑑賞になります。

作品の大きさと、画像の条件を知る

画面上では、約80センチの油彩も、数十センチの版画も同じ大きさに表示されます。寸法を確認すると、作品と身体の距離を想像しやすくなります。実物では、表面の細部を見る距離と、全体の色の関係を見る距離を変えることもできます。

デジタル画像では、画面の明るさや色の調整によって見え方が変わります。そのため、画像の色を絵具そのものの数値として受け取らないことが大切です。画像でも構成を観察できますが、微妙な差については、実物での経験と同じ条件ではないことを踏まえると、判断の範囲が明確になります。

略年譜

1888
3月19日、ドイツのボトロップに生まれる。
青年期
学校の教師として働きながら、美術を学ぶ。
1910年代
人物表現や版画に取り組む。
1920
ヴァイマルのバウハウスに入学。
1923
モホリ=ナジと予備課程の指導を担う。ガラス工房でも教える。
1924
《果物鉢》を制作。
1925
アニと結婚。デッサウのバウハウスで教える。
1926–1928
ステンシル文字体系を制作。
1928
予備課程の責任者となる。
1920年代末–1930年代初め
家具、写真、写真コラージュなどを制作。
1933
バウハウス閉校後、夫妻でアメリカへ移り、ブラック・マウンテン・カレッジで教える。
1930年代以降
メキシコへの旅と、写真・抽象作品の制作を重ねる。
1949
ブラック・マウンテン・カレッジを離れる。
1950
イェール大学のデザイン部門を率いる。《正方形へのオマージュ》を開始。
1954
本記事で紹介する《構造的星座――フェルディナント・ホドラーに捧ぐ》を制作。
1963
イェール大学出版局から《Interaction of Color》を刊行。
1968
《ヴァリアントMM》を制作。
1971
メトロポリタン美術館で回顧展。《Interaction of Color》の小型版が刊行される。
1976
3月25日、死去(財団の略年譜による)。

よくある疑問

なぜ正方形ばかりを描いたのですか?

正方形の構成を繰り返すことで、色の組み合わせによる違いを観察しやすくしました。ただし、アルバースの全作品が正方形ではありません。家具、文字、写真、線の作品、別の矩形構成の版画も制作しています。代表的な連作の形式と、作家の仕事全体を区別して見る必要があります。

《正方形へのオマージュ》は、配色の見本ですか?

色の関係を考える手がかりにはなりますが、実用的な配色図だけではありません。面積、配置、支持体、表面、尺度が、作品の経験に関わります。色の組み合わせを記録することと、その絵の前で色を見ることは同じではありません。実物の条件も含めて見ることで、一点の作品としての具体性が分かります。

同じ色が違って見えるのは、絵具が変化するからですか?

アルバースの色彩研究で中心になるのは、主に周囲との関係による見え方の違いです。絵具が化学的に変化することとは別の問題です。もちろん、作品の保存や照明も現実の鑑賞条件に関わりますが、色紙の実験では、物として同じものを背景の違いで比較できます。

教科書を読むだけで、色彩の研究は理解できますか?

説明は役立ちますが、実際に色を置いて比べることが重要です。《Interaction of Color》は、知識を一方的に覚えるだけでなく、課題を試して見る判断を育てる方法を示します。うまく効果が出ない場合も、何を変えると印象が変わるかを確かめる過程が学びになります。

アニ・アルバースは、共同制作者ですか?

夫妻は生活と仕事を深く共有しましたが、アニは織物や版画などを中心に独自の制作を行った作家です。ジョセフの仕事へ従属する存在として説明することはできません。二人の制作を比較するなら、それぞれの素材と構造、教育の仕事を具体的に見たうえで、共通する関心と違いを考えることが大切です。

最初に見るなら、どの作品がよいですか?

色の関係なら《二つの黄色の間の二つの白》、線と立体の読み方なら《構造的星座》、制作の広がりなら家具や写真コラージュが入口になります。異なる媒体を二、三点見比べると、色の専門家という紹介を越えて、素材と見る条件を研究した作家として理解できます。

アルバースが残した、見る力を育てる方法

アルバースの仕事では、色や素材を知っていることと、実際の関係を観察することが区別されます。名前や規則は入口になりますが、それだけでは目の前の変化を説明できません。形を限定し、条件を変え、結果を見比べることによって、何を見ているかという判断そのものが制作の問題になります。

その姿勢は、絵画、デザイン、写真、教育のいずれにも関わります。同じ形を繰り返すことは、発想の不足を意味するとは限りません。条件を保つからこそ、小さな違いが見えてくる場合があります。作品の前では、まず色や線を一つずつ読み、その後で周囲との関係へ戻ってみてください。知っていたはずの色と形が、別の働きを持ち始めます。

参考資料・出典

生涯と制作史は美術館・研究機関の公開資料を参照し、作品の年記、技法、寸法、所蔵情報は各作品ページを基準にしました。作品の日本語題名には異訳があるため原題を併記しています。本文での画面構成や鑑賞についての記述には、これらの資料を踏まえた本記事の解釈も含みます。

資料確認日:2026年10月3日 / ART LIBRARY