Nasher Sculpture Center(ナッシャー彫刻センター)は、アメリカ合衆国テキサス州ダラスの「ダラス・アーツ・ディストリクト(芸術地区)」にある、近代・現代彫刻の展示と研究に特化した美術館
Museo Reina Sofía(ソフィア王妃芸術センター)は、スペインの首都マドリードにある、20世紀以降の近代美術・現代美術を中心に収蔵・展示する国立美術館
ジェシカ・ストックホルダー(Jessica Stockholder、1959–)は、絵画と彫刻の境界を四十年以上にわたって揺さぶってきた美術家です。家具、冷蔵庫の扉、プラスチック容器、カーペット、電気コード、照明器具、木材、コンクリート、布、ロープ、車体、塗料といった、日常の中で見慣れた物を組み合わせ、床、壁、天井、窓、扉、さらには建物の外部まで巻き込む作品を制作してきました。批評ではしばしば「空間化された絵画」「空間の中の絵画」と形容されますが、本人が一貫して関心を寄せているのは、平面上で成立する「絵として見る」経験と、身体が実際の物質の間を動く経験がどこで交差するかという問題です。
ストックホルダーの作品には、鮮やかな赤、緑、黄、青、紫、蛍光色が頻繁に現れます。しかし色は物の表面を飾るためだけに塗られているのではありません。Whitney Museumが紹介する本人の言葉では、彼女は色を「彫刻的」で「空間を占める物理的な出来事」として経験しています。椅子、プラスチックの桶、電球、布、木材がそれぞれ別々の物として存在していても、同じ色が複数の表面にまたがることで、視覚上は一つの大きな形としてまとまることがあります。逆に、一つの家具へ複数の色や素材を重ねれば、その物が本来持っていた用途や輪郭は崩れます。色は物を統合すると同時に、物の意味を解体する手段でもあります。
そのため、彼女の仕事を「廃材を集めたアッサンブラージュ」とだけ説明することも適切ではありません。日用品を用いる点ではKurt Schwitters、Robert Rauschenberg、Dada、Pop Artなどとの関係が指摘され、空間と観客の身体を重視する点ではMinimalism、Post-Minimalism、installation artの歴史とも接続します。一方で、色と構成への執着はHenri Matisse、Paul Cézanne、Abstract Expressionism、Color Field paintingといった絵画の歴史にも強くつながっています。ストックホルダーは、彫刻へ「絵画的なもの」を持ち込んだというより、絵画と彫刻の双方を同時に成立させ、それぞれの制度的な境界がどこにあるのかを作品ごとに組み替えてきました。
もう一つ重要なのは、作品が乱雑に見えても、単なる偶然の集積ではないことです。Diaでの1995–96年の大規模インスタレーションについて、彼女は作品が頭に浮かぶ思考のように「どこから来たのか分からない」かたちで現れながら、後から分解すれば内部の論理を見つけられると説明しています。大量の物がぶつかり合うように見える一方、色、重さ、向き、材質、光、建築、身体の動線が細かく調整されています。University of Chicagoは彼女の仕事を「chaos with control(混沌を制御によって調整する)」ものと表現しています。自由さと厳密さが同時に存在することが、ストックホルダーの特徴です。
CONTENTS
- 生涯と制作の変遷
- シアトルからバンクーバーへ――カナダで育つ
- ヴィクトリア大学とイェール――絵画と彫刻を横断する
- 1980年代――部屋そのものを作品へ
- 《Mixing Food with the Bed》――物を混ぜ、意味をずらす
- 《Skin Toned Garden Mapping》――建築を色と物質で再構成する
- 「空間の中の絵画」とは何か
- 色は表面ではなく物質である
- ストックホルダーの作品をどう見るか
- 主要作品
- Dia 1995――4000平方フィートを一つの構成へ
- 日用品――意味より先に色、重さ、表面を見る
- 境界――作品はどこからどこまでか
- 建築との関係――壁・床・天井も材料になる
- 観客の身体――見る順序を作者が決めない
- 平面作品――彫刻家が紙へ戻るのではない
- サイト・スペシフィックと自立した彫刻
- 《Assists》――作品は自力で立たなくてもよい
- 公共空間――《Color Jam》から《Slip Slidin’ Away》へ
- 《Peer Out to See》――Palacio de Cristalの内外をつなぐ
- キュレーターとして――「物を見る方法」を展示する
- 教育――YaleからUniversity of Chicagoへ
- 2024年、教育現場を離れカナダへ戻る
- 2025年――カナダへの帰還と新しい大規模制作
- 2026年――Award of Merit Medal
- ジェシカ・ストックホルダーは何を変えたのか
- 略年譜
- 参考資料・出典
生涯と制作の変遷
1959年、シアトルに生まれる
ジェシカ・ストックホルダーは1959年、アメリカ合衆国ワシントン州シアトルに生まれ、カナダのBritish Columbia州Vancouverで育ちました。現在のWhitney Museumは彼女をCanadian-American artistと紹介し、MoMAはAmerican, born 1959としています。長年アメリカを拠点に活動しましたが、幼少期と美術教育の重要な時期をカナダで過ごし、2024年にUniversity of Chicagoを退職した後はBritish Columbia州Nanaimoへ拠点を移しました。
この複数の帰属を、作品の直接的な「テーマ」とする必要はありません。ただし、アメリカの現代美術史だけに閉じず、Vancouver、Victoria、Torontoなどカナダの美術環境との関係を含めて見ることが彼女の経歴を理解するうえで重要です。2025年のMuseum of Contemporary Art Torontoの大規模新作《The Squared Circle: Ringing》は、長年アメリカで制作・教育活動を行った後の「カナダへの帰還」としても位置づけられました。
1970年代後半、VancouverとLondonで学ぶ
1970年代後半、University of British Columbiaで美術を学び、LondonのCamden School of Artにも短期間参加しました。その後University of Victoriaへ移り、1982年にBFAを取得しています。大学時代にはMowry Baden、Roland Brennerらのもとで学びました。
Badenは身体、知覚、移動を重視する彫刻で知られ、Stockholder自身の後の作品でも「目だけで見るのではなく、身体が空間を移動しながら理解する」という問題が中心になります。ただし一人の教師から作品様式を直接継承したと単純化するのではなく、彼女が早い時期から絵画と立体、物体と知覚の間に関心を持つ環境にいたことが重要です。
1983–85年、Yale University
1983年からYale University School of Artで絵画と彫刻を学び、1985年にMFAを取得しました。当時の指導者にはJudy Pfaff、Ursula von Rydingsvard、David von Schlegell、George Trakasらが含まれます。とりわけ1980年代の彫刻では、床や壁を占有するインスタレーション、木材や日用品を用いた構成、作品と建築の関係が急速に広がっていました。
Stockholderは平面の絵画を捨てて彫刻へ「転向」したのではありません。むしろ、絵画で起きている色、形、境界、前後関係を、実物の物体と建築へ持ち込めるのではないかと考えました。この発想が後の制作の基本になります。
1984–85年、初期インスタレーション
1984年にはTorontoのArtculture Resource Centreで《In-side out》、1985年にはNew YorkのMelinda Wyatt Galleryで《Wall Sandwich》を発表しています。またYale在学中から屋外や建築へ介入する作品を試みました。
この時点ですでに、作品を独立した彫刻として台座へ置くより、壁、床、既存物、動線を一つの構成へ含める姿勢が見られます。彫刻の「周囲」を背景として無視せず、作品と同じ程度に重要なものとして扱うことが、初期からの特徴でした。
1987年、《It’s Not Over ’Til The Fat Lady Sings》
VancouverのContemporary Art Galleryで発表した《It’s Not Over ’Til The Fat Lady Sings》では、長い壁と床から天井へ伸びる柱を設け、建材、衣服、家具、塗装面などを二つの関連する部分へ組み込みました。同館のアーカイブは1987年9月の展示として記録しています。
Stockholderは当時、私たちはそれぞれ明確な境界をもつ存在だと感じながら、その境界を正確に見ようとすると特定できないという趣旨を述べています。この「境界はあるように感じるが、どこにあるか決められない」という問題は、その後の制作全体に続きます。作品と部屋、彫刻と家具、色と物体、芸術と日常の境界が常に曖昧だからです。
1988–89年、New Yorkへ
1988年にはTorontoのMercer Unionで《Indoor Lighting for My Father》を発表し、1988–89年にはP.S.1のstudio artistとしてNew Yorkで活動しました。1989年にはPittsburghのMattress Factoryで《Mixing Food with the Bed》を制作します。
この頃から、Stockholderの仕事はNorth Americaのinstallation artの文脈で広く注目され始めます。日用品の使用はDuchamp以後のreadymadeの歴史に接続しますが、彼女の場合、物を「これも芸術である」と単独で提示するのではなく、色と構成によって複数の物を関係づけ、空間全体を一つの視覚場へ変える点が特徴です。
1989年、《Mixing Food with the Bed》
Mattress Factoryの作品では、煉瓦壁から浴槽が突き出し、鮮やかなターコイズ色が与えられ、天井からはラベンダー色の柔らかな布が垂れ下がります。作品名そのものが、通常は一緒にならない「food」と「bed」を混ぜています。
本人は、この作品を「concreteとhairを混ぜる」「bathtubとbrick wallを混ぜる」ような行為にたとえ、「real stuff」と「painted elements」を同等に扱うと説明しました。異質なものを無理に一つへ溶かすのではなく、互いに異なるまま隣接させることで、既知のカテゴリーに亀裂を入れます。
1990年、《Where it Happened》《For Mary Heilmann》
1990年にはNew YorkのAmerican Fine Artsで《Where it Happened》、KölnでMary Heilmannとの二人展《For Mary Heilmann》を発表しました。Heilmannの絵画は、自由な幾何学、鮮やかな色、家具や生活空間との近さで知られます。Stockholderも、絵画の色面を「壁に掛かった一枚の平面」に限定せず、物体と部屋へ広げていきました。
同じ年に見られる作品タイトルの自由な言語感覚も重要です。Stockholderの長い、しばしば奇妙で詩的な題名は、物の意味を一つに固定する説明ではなく、作品と別の連想回路を作ります。タイトルもまた、異質な要素を接続するコラージュとして働きます。
1991年、Whitney Biennialと《Skin Toned Garden Mapping》
1991年、Whitney Biennialへ参加し、同年ChicagoのRenaissance Societyで大規模個展《Skin Toned Garden Mapping》を開催します。Art21の記録によれば、約3140平方フィートの空間に、塗料、赤いカーペット、2×4材、屋根用タール、冷蔵庫の扉、照明、布、床タイル、コンクリート、アルミ箔などを使用しました。
この作品は、部屋へ彫刻を「置く」のではなく、部屋そのものを絵画的構成へ組み込みます。床の色面、壁に沿う物体、垂直材、照明の光が、見る位置によって一枚の巨大な抽象構成に見えたり、ばらばらの実物に戻ったりします。視覚像と物理的空間の往復が本格的に確立した代表作です。
1992–94年、ヨーロッパでの展開
1992年にはKunsthalle Zürichで《Sea Floor Movement to Rise of Fire Place Stripping》、Westfälischer Kunstvereinで《Growing Rock Candy Mountain – Grasses in Canned Sand》などを発表し、国際的な活動を広げました。1994年、LondonのHayward Galleryでは《Fat Form and Hairy: Sardine Can Peeling》を二つの展示室にまたがって制作しています。
Art21によれば、この作品には冷蔵庫、緑のタープ、航空機用ケーブル、セーター、ゴミ箱、枕、コンクリート、羊毛、発泡スチロール、建材、緑色の照明、電気ケーブル、アクリル板などが使われました。家庭用品、工業素材、柔らかな布、重量物、光が同じ構成の中に入り、素材の序列が崩れます。
1995–96年、Dia Center for the Arts
1995年10月から96年6月まで、New YorkのDia Center for the Artsで《Your Skin in This Weather Bourne Eye-Threads & Swollen Perfume》を開催しました。Diaによれば約4000平方フィートの地上階gallery全体を変形する、それまで最大規模のプロジェクトでした。
プラスチックcrate、carpet、yarn、建材、照明、コードなどが建築へ広がり、外のstreet、内部gallery、隣接するstorageまで関係づけられました。作品は「彫刻の集合」というより、建物内で複数の視覚的・身体的出来事が連続する環境です。この展覧会によってStockholderは1990年代installation artの中心的作家として国際的に認識されるようになります。
1996–97年、国際的評価
1996年にはGuggenheim Fellowshipを受賞し、1997年には第47回Venice Biennaleへ参加しました。日用品、色面、建築を組み合わせる彼女の方法は、1990年代のinstallation artを代表する実践の一つとして広く紹介されます。
しかし、作品は当時流行した「没入型空間」の単純な先駆ではありません。映像や特殊技術で別世界を作るのではなく、私たちがすでに知っている椅子、照明、バケツ、延長コード、木材、カーペットを使います。日常世界そのものの見え方を変えることが目的です。
1998–2006年、巨大インスタレーションと小作品を並行する
1998年《Nit Picking Trumpets of Iced Blue Vagaries》では、冷蔵室のpanel、34組の青いプラスチックbucket、木材、ケーブル、rope、carpet、basket、yarn、swing setの一部までを組み込みました。同時に《Landscape Linoleum》のような紙上collageも制作しています。
2000年代に入ると、site-specific installationだけでなく、壁や床へ設置できる比較的小型の彫刻、drawings、printsを継続して制作します。2006年のMoMA PS1《Of Standing Float Roots in Thin Air》では、二層吹き抜けのDuplex Galleryに、fabric、家具、plastic tubs、light bulbsなどを用いた大型構成を作りました。
1999–2011年、Yaleで教える
1999年から2011年までYale School of Artで教え、12年間Sculpture DepartmentのDirectorを務めました。自らの制作がpainting/sculptureという分野区分を越えている一方、教育制度では「sculpture」という領域をどう拡張できるかを考え続ける立場でもありました。
後に本人は「sculpture」という言葉を手放したくないと書いています。Rosalind Kraussが論じたexpanded field以後、installation、performance、sound、conceptual gestureなど多くの語が生まれましたが、Stockholderは空間、mass、volume、void、solidを操作する広い活動をsculptureとして考えることを好んでいます。
2007年、Lucelia Artist Award
2007年、Smithsonian American Art MuseumのLucelia Artist Awardを受賞しました。同賞は当時50歳未満の優れたアメリカ人作家を顕彰するもので、Stockholderの長期的な影響が制度的にも認められた重要な節目です。
同時期、彼女の作品はMoMA、Whitney Museum、Art Institute of Chicago、LACMA、Stedelijk Museum、Vancouver Art Galleryなど多くの美術館コレクションへ入っています。temporary installationだけではなく、独立して保存・再展示可能なsculpture、drawing、printも制作してきたことが、コレクション形成を可能にしました。
2010年、《Peer Out to See》
2010年、MadridのMuseo Reina SofíaがPalacio de Cristalで《Peer Out to See》を開催しました。ガラス建築の中央へ人工池、桟橋のような構造、積み上げられたplastic objectsを置き、鮮やかな色から白・透明へ移行する垂直構成を作りました。
Reina Sofíaは、内部のinstallationを周囲のRetiro Parkのgardenやlakeと接続し、観客が動くことによって作品に参加する構造を強調しています。透明な建物そのものが巨大なframeとなり、作品、建築、都市公園、空が同時に見えるため、「作品の境界はどこか」という問題が特に明瞭に現れました。
2011年、University of Chicagoへ
2011年、University of ChicagoのDepartment of Visual Artsへ移り、ProfessorおよびChairに就任しました。Chairは2018年まで務め、2024年まで同大学で教育を続けました。大学は彼女の制作を「paintingとsculptureの交差点」であり、pictorial experienceとphysical experienceを同時に組織するものと説明しています。
Chicagoでは自身のstudio practiceと教育だけでなく、展覧会curation、公共美術、他分野との対話にも積極的に関わりました。2018年にはAmerican Academy of Arts and Sciencesのmemberに選出されています。
2012年、《Color Jam》
2012年、Chicago Loop Allianceのpublic art project《Color Jam》では、State StreetとAdams Streetの交差点の道路、横断歩道、建物表面へ大規模な色面を展開しました。通常は交通規則、広告、建築によって別々に認識されるsurfaceが、色によって一時的に一つの構成へまとめられます。
galleryのwhite cubeではなく実際の都市空間で、歩行者、車、標識、建築が作品へ侵入します。Stockholderにとってpublic artは完成したsculptureを屋外へ置くことではなく、その場所ですでに動いているものを構成の一部として扱う機会になります。
2015年、《For Events》と《Assists》
2015年の《For Events》は、plywoodとfiberglassで作るS字型のraised platformです。作品を眺めることもできますが、両端のstepsから上へ上がり、stageとして使うこともできます。2024年のUniversity of Chicagoでの再制作では、performanceや授業のplatformとして実際に使用されました。
同時期から《Assists》と呼ぶ作品群を展開します。これらは「自力では立たず」、壁、床、rope、strap、別の物体などのsupportを必要とします。通常、完成した彫刻には自律性と安定性が期待されますが、Stockholderは支えられること、依存すること、temporaryな接続そのものを作品の構造にしました。
2018–19年、《Relational Aesthetics》《Stuff Matters》
2018–19年、The Contemporary Austinで《Relational Aesthetics》を開催し、2019年にはCentraal Museum Utrechtで大規模展《Stuff Matters》を行いました。後者では自作だけでなくmuseum collectionから自ら選んだ物も一緒に展示し、「何が価値ある美術で、何が日常物か」という分類を展示構成そのものから揺さぶりました。
タイトルの「Stuff Matters」は、物質が重要であるという意味と、物についての問題という意味を重ねています。Stockholderの作品では、物を社会的symbolとして読み解くだけでなく、その色、表面、重さ、柔らかさ、光沢、壊れやすさといった物理的性質が意味を作ります。
2019年、《Slip Slidin’ Away》
ViennaのKunstplatz Grabenに設置された《Slip Slidin’ Away》では、自動車、街灯、旗あるいはslideを思わせる形、幾何学的なfloor paintingなどを組み合わせました。KÖR Wienの解説によれば、通行人の位置と速度によって一時的な「picture」が形成され、また消えていきます。
ここでは絵画のframeがありません。街を歩く人が一歩移動するたびに、物同士の重なり方が変わり、その瞬間だけ成立する画面が生まれます。pictorial compositionが固定した画像ではなく、移動する身体によって生成されることを示した公共作品です。
2020–21年、pandemicと《Corona Homeworks》
COVID-19 pandemicでUniversity of Chicagoのstudioへ入れなくなった2020年、Stockholderは自宅で《Corona Homeworks》を制作しました。紙、布、paint、marker、pencil crayon、glue、sewing machineなど、限られた環境で使える材料を組み合わせています。
本人は、状況の制約とともにどのように生活し仕事をするかが意味と美を生み出すと述べました。巨大installationの作家が小さな紙作品へ「縮小」したというより、与えられた物質条件から構成を始めるという普段の方法が、家庭という限定された空間へ移されたと考えられます。
2021年MadridのMax Estrellaでは《Tied to be fit》を開催し、新しい《Assist》も発表しました。同年Turinでは《Cut a rug a round square》をcurateし、Kunstmuseum St. Gallenでは《Città irreale》を展開しています。
2024年、教育現場から退く
2024年春、University of Chicagoを退職しました。同大学での在職は2011年から2024年までです。退職を記念してHutchinson Courtyardに《For Events》を再制作し、former studentsやcurrent studentsによるperformance、授業、public programの舞台として使用しました。
同時期、Carnegie Museum of Artでは《Jessica Stockholder: Picture Making and Assembling》を自らguest-curateし、自作とmuseum collectionを並べました。19世紀のstill lifeからMinimalismを経たcontemporary sculptureまでを一緒に置き、「picture making」と「assembling」が別々の歴史ではないことを示しています。
2025年、Canadaへ戻る
MOCA Torontoは2025年、Stockholderが現在Nanaimo, British Columbiaで生活・制作していることを明記し、《The Squared Circle: Ringing》を「長年United Statesで活動した後のCanadaへのreturn」と位置づけました。大規模site-specific workにtext-based gesturesを組み込み、2021年《Cut a rug a round square》の要素を再考しています。
同年、Es Baluard Museu d’Art Contemporani de Palmaでは《Cardinal Directions》を開催し、長年の作品群をpaintingのillusionistic spaceとsculptureのphysical presenceの関係から再検討しました。VancouverのCatriona JeffriesではEli Bornowskyとの《is a knot helpful》も開催されています。
2026年、Award of Merit Medal for Sculpture
2026年3月、American Academy of Arts and LettersはStockholderへAward of Merit Medal for Sculptureを授与すると発表しました。同賞は1942年以来、painting、sculpture、literatureなど各分野を持ち回りで顕彰する賞で、2026年はsculpture部門がStockholderに授与されました。
1980年代から絵画と彫刻の区分を横断し続けた作家が、70歳前後を迎える時期に「sculpture」の重要なachievementとして評価されたことは象徴的です。本人自身もsculptureという語の境界を拡張しながら、あえてその語を使い続ける姿勢を示してきました。
シアトルからバンクーバーへ――カナダで育つ
StockholderはSeattle生まれですが、Vancouverで育ちました。現在のmuseum profileではAmerican-Canadianという記述が多く、活動史もCanadaとUnited Statesの双方にまたがります。1980年代初期のVancouver、Victoria、Torontoでの制作は、1990年代New Yorkの成功以前の重要な基盤です。
2024年にUniversity of Chicagoを退職した後、Nanaimoへ移住したことで、この地理的な円環が再び可視化されました。2025年MOCA Torontoのcommissionは単なる巡回展ではなく、作家が生活拠点をCanadaへ戻した時期の新しいsite-specific projectでした。
ヴィクトリア大学とイェール――絵画と彫刻を横断する
University of VictoriaでBFAを取得した後、Yaleではpaintingとsculptureの両方を学びました。これは後の作品を理解する上で非常に重要です。Stockholderは「彫刻家なのに色彩的」なのではなく、教育段階から二つの媒体を分けずに扱っています。
平面のpictureでは、観客は基本的に正面から一度に多くの関係を捉えられます。sculptureでは身体を動かし、複数の方向から時間をかけて見る必要があります。Stockholderはこの二つの認識方法を一つの作品の中で衝突させます。ある位置からは一枚の抽象画に見え、数歩動けばバケツ、家具、コードという日用品の集積に戻る。その往復そのものが作品です。
1980年代――部屋そのものを作品へ
1980年代の作品では、壁、柱、家具、床が最初から構成の一部です。これは彫刻をgalleryへ持ち込むという発想と異なります。部屋にはすでに寸法、入口、窓、床材、配線、照明があり、それらを消すことなく作品へ取り込みます。
そのためsite-specific installationは、別会場へそのまま移すことが難しい場合があります。一方でStockholderは後に独立したsculptureも多数制作し、「site-specificかportableか」という二者択一そのものを揺さぶりました。作品によって場所への依存度が変化します。
《Mixing Food with the Bed》――物を混ぜ、意味をずらす
この作品について本人は、「real stuff」がpaintingのsupportになり、painted elementとreal elementが同等に測られると説明しています。通常、絵画ではカンヴァスが支持体で、paintがimageを作ります。Stockholderではbathtub、brick wall、fabric、papier-mâché自体が支持体であると同時にimageになります。
タイトルにある「food」と「bed」は、異なる生活領域に属します。彼女は異質なものを混ぜることで、新しい関係を見つけます。「意味のないランダムさ」を目指すのではなく、既存の分類が強すぎて見えなかった関係を開くことが重要です。
《Skin Toned Garden Mapping》――建築を色と物質で再構成する
3140平方フィートを使用した《Skin Toned Garden Mapping》は、Stockholderの初期大規模installationを理解する格好の作品です。red carpet、refrigerator doors、roofing tar、yellow bug lights、floor tiles、concreteなど、視覚的にも触覚的にも異なる材料が同じ空間へ広がります。
「skin」「garden」「mapping」というタイトルも興味深い組み合わせです。身体表面、自然、地図という別々のscaleが一つの言葉へ接続されています。作品そのものも、surface、room、bodyという異なるscaleを横断します。
Renaissance Societyのgalleryは単なる容器ではなく、作品によって再び「読み取られる」場所になります。壁や床の既存の直角に対し、柔らかな布、斜めの材木、色の不連続が入り、建築が当たり前に持っていたorderを別のorderへ変えます。
「空間の中の絵画」とは何か
Stockholderの作品はよく「painting in space」と呼ばれます。しかし、それを「絵画を三次元化したもの」とだけ理解すると半分しか説明できません。彼女自身は、pictorial way of lookingと、bodyおよびmateriality of things in spaceのintersectionに長く関心を持つと述べています。
絵画的な見方では、赤い椅子、赤い壁、赤いコードが別々の物であっても「赤い形の連続」として一枚の構図にまとめられます。一方、身体的な見方では、椅子は重さをもち、コードにつまずく可能性があり、壁は通り抜けられません。視覚上の平面性と物体の物理的差異は一致しません。
Stockholderはこの不一致を解消しません。むしろ作品の中心に置きます。遠くではpicture、近くではstuff。その間を観客が往復することで、私たちが世界を「像」としても「物」としても同時に理解していることが露出します。
色は表面ではなく物質である
Whitney Museumが紹介するStockholderの言葉では、「Color drives me」。さらに彼女は色をsculpturalで、物に集まり、空間を占めるphysical eventとして経験すると述べています。
たとえば既製のplastic tubには製造時から青色があります。それを青いpaintと隣接させれば、「found color」と「painted color」が連続します。通常のpaintingではpigmentで色を作りますが、Stockholderは商品のplastic、fabric、light bulb、carpetがすでに持っている色もpaletteとして使います。
このため色とmaterialを分離できません。同じgreenでもplasticの光沢、clothの吸収性、painted woodのbrush markでは見え方が違います。色彩構成は同時にsurfaceとmaterialityの構成になります。
ストックホルダーの作品をどう見るか
最初に、作品から少し離れて全体を一枚のpictureのように見ます。どの色が大きな塊を作り、どこにvertical/horizontal/diagonalがあり、視線がどこからどこへ流れるかを確認します。
次に近づき、pictureが何でできているかを見ます。遠くから黄色い矩形に見えたものがplastic bucketだったり、黒い線に見えたものがelectric cordだったりします。視覚的な抽象と物の固有性の間にずれが生じます。
その後、作品の周囲を歩きます。一つの位置から成立していた構図が崩れ、別の位置で新しい重なりが生まれます。Stockholderのsculpture論では、sculptureは時間と空間の中で複数のimageを提示し、viewerがsequenceとdurationを選ぶものとされています。この「見る順番を自分で決める」ことが重要です。
最後に、使われている物を象徴として急いで解釈しない方がよいでしょう。chair=家庭、refrigerator=消費社会、と一対一で意味を決めるより、まず色、重さ、texture、用途、既存のassociationが他の物との接触によってどう変化したかを見ると、作品の構造が分かりやすくなります。
主要作品
1980年代の建築的インスタレーションから、1990年代の大規模な空間作品、独立した彫刻、2000年代以降の建築との対話、参加可能な《For Events》、2025年のMOCA Toronto新作まで、ジェシカ・ストックホルダーが「絵として見ること」と「物質の間を身体で動くこと」をどのように接続してきたかが分かる11作品を選びました。
太った女が歌うまでは終わらない
It’s Not Over ’Til The Fat Lady Sings / 1987 / 建材、衣服、家具、塗装面ほかによるサイト・スペシフィック・インスタレーション / 設置により可変
Contemporary Art Gallery, Vancouverで制作・展示
VancouverのContemporary Art Galleryで発表された初期代表作。長い壁と床から天井へ伸びる柱、家具、衣服、construction materials、painted surfacesを一つの環境へ組み込みました。同館のarchiveは1987年9月の展示として記録しています。作品とgallery、個体と周囲の「境界があるように感じるのに正確には特定できない」というStockholderの初期からの問題意識が明瞭に現れます。
食べ物とベッドを混ぜる
Mixing Food with the Bed / 1989 / 浴槽、煉瓦壁、布、紙粘土、塗料ほかによるサイト・スペシフィック・インスタレーション / 設置により可変
Mattress Factory, Pittsburghで制作・展示
煉瓦壁から突き出すターコイズ色の浴槽と、天井から垂れるラベンダー色の柔らかな布などを組み合わせた作品。Stockholderは「real stuff」がpaintingのsupportとなり、painted elementsとreal elementsを同等に扱うと説明しました。本来混ざらないmaterialや生活領域を接触させ、物の機能とpictorial compositionの双方をずらす初期の重要作です。
スキン・トーンド・ガーデン・マッピング
Skin Toned Garden Mapping / 1991 / 塗料、赤いカーペット、2×4材、屋根用タール、冷蔵庫の扉、金具、黄色い防虫灯と照明器具、布、ビニル床タイル、コンクリート、アルミ箔 / 全体 約3140 square feet
The Renaissance Society, Chicagoで制作・展示
Whitney Biennial参加と同年に制作された初期大規模installation。Art21の記録では約3140平方フィートを占有し、建築の床・壁・照明まで構成へ組み込みました。日用品と建材が鮮やかな色によって一時的に一枚の抽象画のようにまとまり、観客が移動すると再びばらばらの物体へ戻る、Stockholderの「pictorial/physical」な二重性を代表する作品です。
ファット・フォーム・アンド・ヘアリー:サーディン・キャン・ピーリング
Fat Form and Hairy: Sardine Can Peeling / 1994 / 塗料、冷蔵庫、緑のタープ、航空機用ケーブル、セーター、ゴミ箱、枕、コンクリート、羊毛、発泡スチロール、建材、緑色照明、電気ケーブル、アクリル板 / 2 gallery spaces
Hayward Gallery, Londonで制作・展示
Hayward Galleryの二つの展示室へ展開された作品。硬い冷蔵庫やコンクリート、柔らかなセーターや枕、light、cableなど質感と重量が大きく異なるものを同じ構成へ入れています。日用品を象徴の集合として扱うより、color、texture、mass、supportの関係を空間規模で組織するStockholderの方法が成熟した例です。
この天候の中のあなたの皮膚――眼糸と膨らんだ香り
Your Skin in This Weather Bourne Eye-Threads & Swollen Perfume / 1995–1996 / プラスチック容器、カーペット、毛糸、照明、電気コード、建材、コンクリート、紙粘土、塗料ほかによるサイト・スペシフィック・インスタレーション / 約4000 square feetのgallery全体
Dia Center for the Arts, New Yorkで制作・展示
Diaのground-floor gallery約4000平方フィートを変形した、当時最大規模のproject。plastic crates、carpet、extension cords、bare bulbs、drywallなどが内部だけでなく建築の別領域へも伸びました。Diaは、change、relativity、variationを通したperceptual・visceral・somatic experienceを拡大する作品と位置づけています。
無題
1995 / 籐椅子、プラスチック桶、電球付き照明器具、アクリル・油彩、プラスチック、布、コンクリート、樹脂、木、車輪、アクリル毛糸、ガラス、樹脂封入クッキー / 181.6 × 160 × 127 cm
Whitney Museum of American Art, New York
site-specific installationとは異なり、museum collectionとして再展示可能な独立彫刻の代表例。Papasan chairは座る機能を失い、plastic tubやfabric、light、wheels、yarn、paintのsupportへ変わります。Whitneyは、Stockholderが色を「sculptural」「空間を占めるphysical event」と考えることを紹介しており、本作はfound objectとpainted surfaceを同等に扱う方法を明確に示します。
アイス・ブルーの気まぐれを細かく拾うトランペット
Nit Picking Trumpets of Iced Blue Vagaries / 1998 / 冷蔵室パネル、青いプラスチック桶34組、木材、ケーブル、金具、ロープ、エナメル・油彩・アクリル、カーペット、籠、毛糸、ブランコ部材 / 設置により可変
Musée des Beaux-Arts de Nantes / La Salle Blancheで制作・展示
industrial refrigerator panelsと大量の同色plastic bucketsを、wood、rope、carpet、yarnなどと組み合わせた1990年代後半の大規模installation。同じblueが異なるmaterialへ反復されることで、物体の種類を超えたpictorial unityが生まれます。一方、近づくと各素材の用途やtextureが再び前面に出ます。
薄い空気の中に立ち、浮かぶ根
Of Standing Float Roots in Thin Air / 2006 / 布、家庭用家具、プラスチック容器、電球、木材、合板、カーペット、電気コードほかによる大規模インスタレーション / MoMA PS1 Duplex Galleryに合わせた設置、可変
MoMA PS1, New Yorkで制作・展示
MoMA PS1の二層吹き抜けgalleryを使ったsolo project。mass-produced objectsとfound materialsを組み合わせ、天井からplastic tubsとlight bulbsを吊るし、fabricや家具を空間へ配置しました。MoMA PS1は、Abstract Expressionism、Color Field painting、Minimalismなど複数のtraditionを横断しながら、日用品のaesthetic qualityを引き出す作品と説明しています。
Dia 1995――4000平方フィートを一つの構成へ
《Your Skin in This Weather Bourne Eye-Threads & Swollen Perfume》は、Stockholderの初期キャリアを代表する大規模projectです。Dia Center for the Artsのground floor約4000平方フィートを使い、green linoleumのpath、lamp、plastic milk crates、swimming-pool liner、carpet、drywall、concrete、papier-mâché、extension cordなどを建築全体へ展開しました。
Friezeの当時のreviewによれば、yellow extension cordsは裸電球へつながり、建物の別階へまで伸び、wallの一部は開口されてstorage roomまで露出しました。重要なのは、galleryの「完成された白い箱」が中立ではないことを可視化した点です。裏側のstorage、配線、床、outside streetまでが作品の関係網へ入ります。
Dia自身は、この作品をperceptual、visceral、somatic experienceに基づき、change、relativity、variationへの関心を拡大するものと説明しています。つまり大量のobjectがあることより、観客が歩くことでそれらの関係が変わり続けることが核心です。
日用品――意味より先に色、重さ、表面を見る
Stockholderが使用するobjectには社会的なassociationがあります。refrigeratorは家庭と消費、shopping cartは流通、chairは身体、carはmobilityを連想させます。Whitney Museumも、一つ一つのcomponentがそれ自身のhistoryとassociationを持つと説明しています。
しかしStockholderはobjectをsymbolの辞書として使いません。物を選ぶ基準には色、scale、materiality、weight、surfaceが大きく関わります。既成品の意味は消えませんが、別の物と接触することで新しいrelationshipが生まれます。
たとえば1995年Whitney所蔵のuntitled workではPapasan chair、本来座るための家具の上へplastic tubやfabricが置かれ、座る機能は失われます。一方でchairの曲線、tubの色、yarnのgrid、light fixture、pink electrical cordがvisual compositionとして働きます。「chair」という意味と「curve/color/texture」という形式が同時に存在します。
境界――作品はどこからどこまでか
Stockholderの作品ではboundaryが繰り返し問題になります。sculptureはどこで終わり、galleryはどこから始まるのか。painted areaだけがartなのか、そこから伸びるelectrical cordもartなのか。roomのexisting columnは作品なのか。答えは作品ごとに変わります。
1987年の発言に見られるように、Stockholderは「境界がある」という感覚と、それを厳密に定義できないことの矛盾に早くから関心を持っていました。これは個人と他者の関係だけでなく、美術のcategoryにも当てはまります。
paintingはframeで境界を作ることができます。sculptureにはpedestalがあります。しかしinstallationがfloor、wall、ceilingへ広がれば、境界は見えにくくなります。Stockholderは境界を消すだけでなく、「いまどこを作品として認識しているのか」をviewer自身に意識させます。
建築との関係――壁・床・天井も材料になる
site-specific workでは建築を背景として受け入れるのではなく、compositionのmaterialとして扱います。壁へpaintを塗り、floorへcarpetやtileを置き、ceilingからlightを吊り、doorやwindowを視覚上のshapeとして利用します。
これによってarchitectureのfunctionとpictorial compositionが重なります。doorは通るための開口部であると同時にrectangleであり、columnは構造材であると同時にvertical lineです。建築をimageとして見ることと、身体が利用するstructureとして経験することが同時に起きます。
2010年のPalacio de Cristalはこの問題に特に適した会場でした。glass wallを通してparkが見えるため、作品のbackgroundが常に外のlandscapeへ接続します。室内/屋外、architecture/garden、artwork/real worldという境界が透明な建物によって複雑になります。
観客の身体――見る順序を作者が決めない
Stockholderは自らのsculpture論で、filmとsculptureの違いを「sequenceとdurationをviewerが選べる」点として説明しています。filmは作者がimageの順序と時間を決めますが、sculptureでは観客が右へ行くか左へ行くか、何秒立ち止まるかを決めます。
そのため作品は一つの「正面」を持たない場合が多く、photographだけでは経験の一部しか記録できません。ある地点では赤と青が重なって一枚のpictureが成立しても、一歩動けばその関係が崩れ、objectの裏側やsupportが見えます。
Stockholderにとってviewerは「参加型作品で操作をする人」という意味だけで参加するのではありません。歩き、止まり、視線を変えるという通常の鑑賞行為自体が作品を完成させます。
平面作品――彫刻家が紙へ戻るのではない
Stockholderはdrawings、collages、printsを継続的に制作しています。MoMA所蔵《Landscape Linoleum》はprinted paper、color photograph、paint、gouache、felt-tip pen、colored pencilを切り貼りした小さなpaper workです。
ここでも方法はinstallationと似ています。異なるsourceとmaterialを一つの平面へassembleし、輪郭やtextureの差を残したままvisual fieldを作ります。三次元を二次元へ「縮小」したのではなく、pictorial spaceそのものを別のmaterial arrangementとして扱っています。
2000年Whitney所蔵《Untitled》ではwoodcut、monoprint、collageをfabric上に組み合わせています。printmakingの再現性、monoprintの一回性、collageのphysical layeringが一つのsurfaceで衝突します。
サイト・スペシフィックと自立した彫刻
Stockholderはtemporary site installationで知られますが、museum collectionへ収蔵される独立したsculptureも多数制作しています。1995年Whitney所蔵作品のように、chair、tub、light fixture、fabric、concrete、resinなどを一つのobjectとして再展示できる作品があります。
これはsite-specific practiceと矛盾しません。自立作品でもwallとの接点、floorとの接触、electric cordの伸び方など、周囲のsiteとのrelationshipが完全には消えないからです。
反対にsite-specific workも、完全に一回限りとは限りません。《For Events》は「instructions to fabricate sculpture」としてSmart Museum of Artに収蔵され、2024年に新たにfabricateされました。作品のidentityがoriginal materialにあるのか、shape/instruction/useにあるのかという問題も生まれます。
《Assists》――作品は自力で立たなくてもよい
《Assists》は2010年代半ば以降の重要なseriesです。作品は自分だけでは安定して立たず、wall、floor、rope、strap、weightなど外部のsupportを必要とします。
彫刻は伝統的に、独立した物体として完成し、museumへ移動しても同じidentityを保つと考えられます。《Assists》はそのautonomyを意図的に弱めます。作品は「何に支えられているか」を隠さず、むしろ見せます。
この考えは形式だけに留まりません。Stockholderは物同士がどのようにsupportし、supportされるかに長期的な関心を持ってきました。2024年の《For Events》展でも、objectsがcohereするdifficultyと相互supportが中心的テーマとして紹介されました。
ただし《Assists》を社会的相互扶助の直接的metaphorとして固定する必要はありません。まず、gravity、hardware、rope、wall、weightという具体的なphysical relationがあり、その経験から比喩的な意味が発生します。
公共空間――《Color Jam》から《Slip Slidin’ Away》へ
public spaceではmuseumより多くの要素をcontrolできません。traffic、weather、pedestrians、advertising、existing architectureが作品の中へ入ります。Stockholderにとって、この予測不能性は欠点ではなく制作条件です。
Chicagoの《Color Jam》ではstreet intersection全体がcolor compositionとなり、Viennaの《Slip Slidin’ Away》ではcar、street lamp、signpost、floor paintingを組み合わせました。viewerは「作品を見るために立ち止まる美術館来場者」だけではなく、仕事へ急ぐ人、観光客、車のdriverでもあります。
その結果、pictureは一瞬で成立して消えます。public workは巨大な固定imageというより、都市の流れの中に一時的なvisual relationを作る装置になります。
《Peer Out to See》――Palacio de Cristalの内外をつなぐ
Palacio de Cristalは19世紀のglass architectureで、内部からRetiro Parkが透けて見えます。Stockholderは中央へ人工池とpierのようなstructure、plastic objectsのcolumnを設置し、bright colorからwhite、transparentへ移行する構成を作りました。
Reina Sofíaは、この作品を庭園と湖、interiorとexterior、greenhouseのatmosphereを結ぶものとして説明しています。透明素材と自然光のため、作品の色は時間帯によって変化し、外のtreeやskyもcompositionへ侵入します。
また観客が作品の周囲を動くことで、object同士の重なりとbackgroundが変化します。「paint through three-dimensional objects」というStockholderの方法が、建築規模で明瞭に現れる作品です。
キュレーターとして――「物を見る方法」を展示する
Stockholderはartistであるだけでなく、curatorial projectを複数行っています。2010年《The Jewel Thief》、2015年《ASSISTED》、2019年《Stuff Matters》、2021年《Cut a rug a round square》、2024–25年《Picture Making and Assembling》などです。
これらのprojectでは、自作と他者の作品、museum collection、historical objectを関係づけます。作家としてplastic bucketとchairを組み合わせるように、curatorとして異なる作品を「assemble」し、それまで見えなかったformal/material relationを作ります。
Carnegie Museum of Artは2024年展を、19世紀のstill lifeからMinimalismに関連するcontemporary sculptureまでを通してordinary materialsを見直す試みと説明しました。curationが制作と別の活動ではなく、「ものを隣に置くことで意味を変える」という同じ方法の延長にあります。
教育――YaleからUniversity of Chicagoへ
StockholderはYale School of Artで1999–2011年に教え、そのうち12年間Sculpture Departmentを率いました。2011年にUniversity of Chicagoへ移り、2011–18年はDepartment of Visual ArtsのChairを務め、2024年まで教育を続けました。
この長いteaching careerは、彼女の影響を作品だけで測れない理由でもあります。installation、expanded sculpture、painting/objectの境界を扱う若い世代にとって、Stockholderはmuseumで見る歴史的作家であると同時に、studio critiqueを行うteacherでもありました。
2024年の《For Events》をformer studentsとcurrent studentsがperformance stageとして使用したことは、その関係を象徴しています。作品が教育の記念碑になるのではなく、他者が実際に使い、新しいeventを生むplatformになりました。
2024年、教育現場を離れカナダへ戻る
University of Chicagoの公式記録では、Stockholderは2024年春にretireしました。同年の《For Events》展はそのcareerを祝うprojectとして企画されています。その後、WhitneyおよびMOCA Torontoの最新profileではNanaimo, British Columbiaで生活・制作しているとされています。
同年のCarnegie Museum of Art《Picture Making and Assembling》では、自身の作品をmuseum collectionの中へ入れ、長年考えてきたpictorial/physical relationをcuratorial scaleで再提示しました。retirementは制作活動の終結ではなく、教育institutionから離れた新しい段階の始まりでした。
2025年――カナダへの帰還と新しい大規模制作
2025年MOCA Torontoの《The Squared Circle: Ringing》はmajor new commissionとして制作されました。MOCAは作品が2021年《Cut a rug a round square》のelementsを再検討しながら、material、color、perspectiveを通してfloor 1全体をimmersive environmentへ変えたと説明しています。
特に新しいのは、Stockholderが長年続けてきたpoetic writingをmuseum signageやmessagesとの関係へさらに押し広げた点です。文字はinformationだけでなく、shape、rhythm、surfaceとしても扱われ、objectとlanguageの境界が新たに問題になります。
同年のEs Baluard《Cardinal Directions》は、illusionistic space of paintingとphysical presence of sculptureという彼女の中心問題をretrospectiveに整理しました。Vancouverでの《is a knot helpful》も含め、生活拠点をCanadaへ戻した直後に複数の重要展が重なっています。
2026年――Award of Merit Medal
American Academy of Arts and Lettersは2026年3月17日、同年のAward of Merit Medal for SculptureをJessica Stockholderへ授与すると発表しました。同賞は毎年分野を変えて授与され、2026年のsculpture部門ではStockholderが選ばれました。
この評価は、彼女の作品が「paintingとsculptureの間にあるため分類不能」という段階から、sculptureの概念そのものを拡張した歴史として定着していることを示します。1980年代にはgallery architectureへ物を溢れさせる実験だったものが、現在ではcontemporary sculptureを考える重要な基準の一つになっています。
ジェシカ・ストックホルダーは何を変えたのか
第一に、絵画を壁から「外へ出した」というより、絵画的な見る方法を空間全体へ拡張しました。色、輪郭、重なり、前後関係は平面だけに存在するのではなく、chair、wall、plastic tub、light、carpetの間でも成立します。viewerは三次元空間を移動しながら、瞬間ごとに二次元的なpictureを作ります。
第二に、彫刻におけるmaterialのhierarchyを崩しました。bronze、marble、steelのような伝統的sculpture materialsだけでなく、refrigerator door、plastic bucket、extension cord、fabric、garbage can、shipping materialを同等に扱います。しかしArte Poveraのように「poor material」そのものを ideology化するのではなく、身の回りのstuffが持つcolor、weight、surface、use、associationをformal compositionへ組み込みます。
第三に、site-specificityを作品と建築の固定的な一対一関係だけで考えませんでした。temporary installation、museum-collectable sculpture、instruction-based refabrication、《Assists》のような依存構造を横断し、「作品が場所からどれほど独立している必要があるのか」を段階的に変化させています。
第四に、viewerの身体をpictorial compositionの一部にしました。作品を見る位置が変わればpictureも変わります。これはinteractive technologyを使わなくても、見るという行為自体がactiveであることを示します。sculptureを見る時間と順序を観客が決めるというStockholder自身の考えは、photographだけでは作品を完全に記録できない理由でもあります。
そして、もっとも重要なのは、chaosとorderのどちらかへ作品を整理しなかったことです。大量の日用品は乱雑に見えますが、色と形は精密に調整されています。formalismだけを追求しているように見えても、物は生活世界から来たassociationを失いません。paintingとsculpture、abstractとeveryday、pictureとbody、autonomyとdependencyをどちらかへ解決せず、緊張したまま共存させる。この「複数のsystemsを重ねたまま成立させる」方法が、Stockholderの仕事を四十年以上にわたり更新し続けています。
略年譜
- 1959
- Seattle, Washingtonに生まれる。Vancouver, British Columbiaで育つ。
- 1977–1980
- University of British Columbiaで美術・一般科目を学び、LondonのCamden School of Artにも短期参加。
- 1980–1982
- University of Victoriaで学び、1982年BFA取得。
- 1983–1985
- Yale University School of Artでpaintingとsculptureを学び、1985年MFA取得。
- 1984
- TorontoのArtculture Resource Centreで《In-side out》。
- 1985
- New YorkのMelinda Wyatt Galleryで《Wall Sandwich》。初期から建築と彫刻を一体化する作品を展開。
- 1987
- Contemporary Art Gallery, Vancouverで《It’s Not Over ’Til The Fat Lady Sings》。建材、家具、衣服、painted surfacesをgallery architectureへ組み込む。
- 1988
- Mercer Union, Torontoで《Indoor Lighting for My Father》。
- 1988–1989
- P.S.1のstudio artistとしてNew Yorkで活動。
- 1989
- Mattress Factory, Pittsburghで《Mixing Food with the Bed》。
- 1990
- American Fine Arts, New Yorkで《Where it Happened》。KölnでMary Heilmannとの《For Mary Heilmann》。
- 1991
- Whitney Biennial参加。Renaissance Society, Chicagoで《Skin Toned Garden Mapping》。
- 1992
- Kunsthalle Zürichで大規模個展。ヨーロッパでの活動が本格化。
- 1994
- Hayward Gallery, Londonで《Fat Form and Hairy: Sardine Can Peeling》。
- 1995
- Sala Montcada, Fundació “la Caixa”, Barcelonaで《Sweet for Three Oranges》。10月、Dia Center for the Artsで《Your Skin in This Weather Bourne Eye-Threads & Swollen Perfume》開幕。
- 1996
- Dia展が6月まで継続。Guggenheim Fellowship受賞。
- 1997
- 第47回Venice Biennaleに参加。
- 1998
- 《Nit Picking Trumpets of Iced Blue Vagaries》、paper work《Landscape Linoleum》などを制作。
- 1999
- Yale School of Artで教職に就き、2011年まで勤務。Sculpture Departmentを12年間率いる。
- 2004
- Whitney Biennial参加。Rice University Art Galleryで《Sam Ran Over Sand or Sand Ran Over Sam》。
- 2006
- MoMA PS1で《Of Standing Float Roots in Thin Air》。二層galleryを使う大規模sculptureを制作。
- 2007
- Smithsonian American Art MuseumのLucelia Artist Award受賞。
- 2009
- Madison Square Park, New Yorkで《Flooded Chambers Maid》。
- 2010
- Museo Reina Sofía, Palacio de Cristalで《Peer Out to See》。Skidmore CollegeでIan Berryと《The Jewel Thief》を共同curate。
- 2011
- University of Chicago Department of Visual ArtsのProfessor/Chairに就任。National Academy of DesignのNational Academicianに選出。
- 2012
- Chicago Loopでpublic project《Color Jam》。Anonymous Was A Woman Award受賞。
- 2014
- American Academy of Arts and LettersのAward in ArtおよびNational Academy Award for Excellenceを受賞。
- 2015
- 《For Events》制作。《Assists》seriesを展開。Kavi Guptaでcurated exhibition《ASSISTED》。
- 2018
- American Academy of Arts and Sciencesに選出。The Contemporary Austinで《Relational Aesthetics》開幕。
- 2019
- Centraal Museum, Utrechtで《Stuff Matters》。Viennaでpublic work《Slip Slidin’ Away》。Austinで《Save on select landscape & outdoor lighting: Song to mind uncouples》。
- 2020
- COVID-19 lockdown中に《Corona Homeworks》を制作。Los Angelesで《Digital Thoughts》。
- 2021
- Madridで《Tied to be fit》、Turinで《Cut a rug a round square》、Kunstmuseum St. Gallenで《Città irreale》。
- 2023–2024
- Frac Normandieで《Nomadic Musings》。
- 2024
- University of Chicagoをretire。同大学で《For Events》を再制作。Carnegie Museum of Artで《Picture Making and Assembling》をguest-curate。Nanaimo, British Columbiaへ生活拠点を移す。
- 2025
- Es Baluard Museuで《Cardinal Directions》。MOCA Torontoでmajor new commission《The Squared Circle: Ringing》。VancouverでEli Bornowskyとの《is a knot helpful》。
- 2025–2026
- Sheldon Museum of Artがmonumental untitled workを新規取得しGreat Hallで公開。
- 2026
- American Academy of Arts and LettersのAward of Merit Medal for Sculpture受賞。
参考資料・出典
本ページはJessica Stockholder公式サイト、Whitney Museum of American Art、The Museum of Modern Art/MoMA PS1、Dia Art Foundation、The Renaissance Society、Mattress Factory、Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofía、University of Chicago、Carnegie Museum of Art、Museum of Contemporary Art Toronto、Es Baluard Museu、Art21、American Academy of Arts and Lettersなどの美術館・教育機関・作家公式資料を参照してART LIBRARYが独自に執筆しました。原文の全文翻訳ではありません。
- Jessica Stockholder — Official Website
- Jessica Stockholder — Biography / CV
- Jessica Stockholder — Swiss Cheese Field—And Sculpture Mingled
- Whitney Museum of American Art — Jessica Stockholder
- Whitney Museum — <no title>, 1995
- The Museum of Modern Art — Jessica Stockholder
- MoMA PS1 — Of Standing Float Roots in Thin Air
- MoMA — Landscape Linoleum, 1998
- Dia Art Foundation — Your Skin in this Weather Bourne Eye-Threads and Swollen Perfume
- The Renaissance Society — Skin Toned Garden Mapping
- Mattress Factory — Mixing Food with the Bed
- Contemporary Art Gallery — It’s Not Over ’Til The Fat Lady Sings
- Art21 — Jessica Stockholder: Artwork Survey: 1990s
- Museo Reina Sofía — Jessica Stockholder: Peer Out to See
- University of Chicago Department of Visual Arts — Jessica Stockholder
- University of Chicago — Jessica Stockholder: For Events
- Carnegie Museum of Art — Picture Making and Assembling
- MOCA Toronto — The Squared Circle: Ringing
- Es Baluard Museu — Cardinal Directions
- American Academy of Arts and Letters — 2026 Art Award Winners
資料確認日:2026年10月1日 / ART LIBRARY